◆天下の田中圭スマイルが秘めるもの
「オケを生かすも殺すもコンマス次第」
朝陽はそう言って、天才に蓋をした初音を玉響のコンマスにスカウトする。もちろん訳ありな彼女は断る。強情な朝陽も食い下がる。「あなたの教え子は心から楽しそうにヴァイオリンを弾きますね。あれは音楽が好きで好きでたまらない人間の弾き方です」と口説き文句を浴びせ、あげくには朝陽の父親である市長(生瀬勝久)の力まで借りる。半ば無理強いさせられるように楽団の広報を任された初音だったが、いざリハに行ってみると、手渡されたのはヴァイオリンだった。
朝陽が指揮を振る「ウィリアム・テル序曲」。トランペットによる有名な序奏のあと、初音は構えたヴァイオリンを弾き始める。すると途端に画面上のあちらこちらで楽しげな音色が賑わう。第二の指揮者と言われるコンマスの力が推進力となって指揮者のタクトを軽やかに飛翔させる。一瞬のうちにまとまりを得た楽団を見て、さすがの朝陽もしたり顔。
音楽を奏でる喜びを取り戻した初音はコンマスを引き受ける。朝陽と初音によるデコボコなコンビが手を取り合う場面、その瞬間、朝陽の表情が自然とゆるむ。やっといただけました、天下の田中圭スマイル。爽やかな序曲のような彼の笑顔を見て、クラシック音楽は偉大な力を秘めているなと心底思った。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu