◆古典音楽の威厳を体現する田中圭
玉響の常任指揮者に就任した朝陽は、早くもしびれを切らしている。ビオラの桃井みどり(濱田マリ)はパート譜を忘れるし、チェロの佐々木玲緒(瀧内公美)は恋愛依存症、フルート主席の庄司蒼(坂東龍汰)にいたっては遅刻の常習犯。庄司が寝坊したといって平然と席に座っても、他の団員は気にするでもない。楽団全体が怠惰にゆるみきっている。
ある公演のリハーサル途中で、遅れてきたヴァイオリン奏者が平謝りで入ってきたところ、他の団員は彼をいないものとして演奏を続けたなんて話もよく耳にするのが、クラシック音楽の舞台裏だ。プロオケ団員たちの性格が冷たいわけではない。彼らはむしろ温かい心根の人ばかり。古典音楽を奏でるオーケストラにはこれくらい凍てついた厳しい雰囲気が流れる中、緊張感を持つことが当たり前の感覚だということだ。
その意味でも団員たちから「あんな偉そうな指揮者見たことない」と陰口を叩かれる朝陽は、この世界にふさわしい態度の人だ。リハ時間ぴったりに入ってきたかと思えば、開口一番に団員たちを叱責する。激しく厳しいその口調。場の雰囲気は凍りつくが、古典音楽の威厳を体現する田中圭の熱演に清き一票を投じたい。
◆豊かで、楽しく、胸踊るシンフォニー
朝陽が冒頭で指揮していたドイツ・ライプツィヒの楽団は、おそらくライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団がモデルになっているのではないかと思う。世界の名門であるこの楽団の歴代指揮者といえば、フルトヴェングラーやリッカルド・シャイーなど、そうそうたる強面指揮者たちが名前を連ねている。
プロの音楽家である以上は音楽に対して厳格な態度が求められるものだけれど、音楽そのものは肩肘張って聴くものではない。身体が踊るビートを刻むポップスナンバーと同じようにクラシック音楽も楽しく聴いてもらいたいものである。
「ダメ出しマシンガン」と揶揄される朝陽も、音楽に誠実に向き合う愛を持っているからこその厳格さ。彼もまた人間として冷たいわけではなく、彼がまとめ、作り上げる音楽は豊かで、楽しく、胸踊るシンフォニーだ。
事実、朝陽が救世主とするのはかつて神童と呼ばれた天才ヴァイオリニストの顔を隠して今は市役所で働いている谷岡初音(門脇麦)で、まさに彼女の音楽は温かで、音楽を奏で、聴く喜びに満ちている。このふたりの掛け合いが果たしてどんな楽しげな和音を奏でるのか。