そんな中、友人が、認知症の犬でも長期間預かってくれる動物病院を紹介。信頼できる獣医師とスタッフにお願いできたことで、昭弘さんは安堵して入院することができました。
しかし・・・、ほっとしたのも束の間、手術は一時的なもので、退院間際、昭弘さんは余命宣告を受けることとなったのです。
昭弘さんは、余命宣告を受けたことを、友人たちには話しませんでした。
どんなに辛かったことでしょう。
どんなに心細かったでしょう。
それでも昭弘さんは、自身の病と向き合いながら、認知症が進み、目もほとんど見えない愛ちゃんの介護を懸命にしました。
徘徊で家具や電化製品にぶつかる愛ちゃんのため、介護用のサークルを購入し、少しでも愛ちゃんが楽に生活できるよう工夫も凝らしました。
▲2013年海岸初日の出
同時に、昭弘さんは、迫りくる死に背を向けず、身辺整理を始め、一人息子の勇輔さんに事情を話して、自分が亡くなった後のことを頼みました。
最も心配だったのは、愛ちゃんのことです。
すでに介護が必要となり、てんかんを持っていた愛ちゃんのお世話は容易ではありません。しかし、愛ちゃんはすでに15歳。「長い介護にはならないだろう」と、昭弘さんは勇輔さんに、愛ちゃんの世話を託したのです。勇輔さんも、これが最期の親孝行になると、勤めていた会社を退職し、昭弘さんと、愛ちゃんの介護を担う決意をしました。
終末期を迎えた昭弘さんは、病院での最期を希望せず、在宅での終末医療を希望しました。最期の時まで愛犬、愛ちゃんのそばを離れたくなかったのです。
▲動物病院にいる晩年の愛ちゃん
昭弘さんの容体が少しずつ悪化するにつれ、愛ちゃんも寝たきりになり、食欲も徐々に低下していきました。
そんなふたりを見ていた勇輔さんは当時を振り返りこう語っています。
「愛は、おやじの容体に並行するように、どんどん弱っていきました。おやじの後を追って、すぐに死ぬんじゃないか・・・。本当にそう思ったんです」
やがて・・・、夏の日の明け方近く、昭弘さんは、愛ちゃんのすぐ隣で眠るように静かに息を引き取りました。
昭弘さんの葬儀を終え、愛ちゃんのお世話を最期の時まで任された勇輔さん。
「認知症がひどくて、もう立つこともできないのに、夜鳴きがひどかったんです。その小さな身体からどうしたらあんな大きな声が出るのか、というくらいひどかった・・・」
寝不足になりながらも勇輔さんは、寝たきりの愛ちゃんに床ずれができないよう、体位を変えたり、食事の介助をしたり、昭弘さんの願い通り精一杯愛ちゃんの介護を担いました。
それからわずか一週間。
愛ちゃんは、昭弘さん初七日の夜、昭弘さんに手招きされるかのように、天に召されていったのです。
▲花に囲まれ亡くなった愛ちゃん
「こんなことって本当にあるんですね・・・本当に、おやじの後を追って、逝ってしまった・・・。おやじは、心配のあまり愛を置いてはいけなかったんでしょう。三途の川にたどり着く“初七日”に愛を迎えに来て、愛と一緒に天国に渡って行ったんです。愛と一緒ならおやじもきっと寂しくないかな・・・」
勇輔さんは、昭弘さんが決めたペット霊園で愛ちゃんを荼毘に伏し、最期のお別れをしました。
きれいなお花に囲まれた愛ちゃんはまるで笑っているかのように安らかです。
きっと、今頃大好きなお父さんと一緒に、天国で走り回っていることでしょう。
世の中には不思議なことが多々起こるものです。
いつの日も、愛犬・愛猫が見ているのは、飼い主さんだけ。
そして、飼い主さんが、彼らを大切に思う気持ちは、言葉を話さないペットたちにも必ず届いているはずです。
愛ちゃん、今頃天国でどんなお話を昭弘さんとしているのでしょうか?
昭弘さん、愛ちゃん、安らかに―。
ふたりが天国に一緒に旅立って、早一年が過ぎました。
(取材:2022年6月)
▲愛ちゃん5歳、犬友達仲間と初詣
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