◆名実ともに折り紙付きのキャリア
佐藤健。この固有名詞、それだけで後光がさすようなまばゆさ。彼の名前、その輝かしいキャリアが発するまばゆさは、名実ともに折り紙付き。これまでに出演したどの映画、どのドラマを思い出してみても、彼の代表作といえる。
たとえば、黒沢清監督の『リアル~完全なる首長竜の日~』(2013年)。等身大の恋人像を体現する佐藤の驚くべき透明感と存在感は慎ましく、清らかだった。テレビドラマ作品だと、ラブコメの新たな金字塔として大ヒットを記録した『恋はつづくよどこまでも』(2020年、TBS系)が外せない。
今やTBSドラマ作品には欠かせない、ラブコメの門番、金子ありさの脚本世界を自由奔放に動き回るドSな王子様キャラが毎話で、“萌え”必至、超がつくくらい胸キュンな名場面を製造するラブコメ工場のような量産体制を生み出した。
向かうところ敵なし。揺るぎないキャリアを盤石にする佐藤だが、『First Love 初恋』でもまた驚くほど素直に彼の魅力が映り込んでいる。
◆スピーカー俳優の超絶技巧
第1話、前半30分に満たないのに、早くも見せ場があった。物語の重要な推進力となるタクシー車内での場面。夕日が差す後部座席、晴道がライラックの花束を抱えて座っている。ファイターズとカープ戦の勝敗を気にする彼が電話しはじめると、運転手の占部旺太郎(濱田岳)はそっとラジオの音量を下げるが、ラジオからはある一曲がかすかに聴こえてくる。
宇多田ヒカルの「First Love」。この曲を耳にした晴道は、思わず電話を切り、音量を上げてもらう。いきなりクライマックスのような展開である。画面上でエモーショナルに流れる「First Love」の音は、だんだんとぱきっとした端正な音色で聴こえてくるようになるのだが、それがまるで佐藤健の身体の底から鳴り響くようなのだ。
晴道にとってすごく特別な曲だからこそ、佐藤はそれを冒頭から印象づけようとして、自分がスピーカーのような機能をはたす役作りをしている。名付けて、スピーカー俳優。役作りもここまでくると、超絶技巧ではないだろうか?