「柏木学生」「岩倉学生」。そう呼び合った、航空学校時代。制服を着てしまえばどこで生まれて育ったかなどの違いは見えなくなり、「パイロットになりたい」という目標も同じ、学生同士。でも卒業して制服を脱いでしまったら、そこにいるのは全然違うふたりだった。

 パイロットの父を持ち、趣味は乗馬の柏木(目黒蓮)。就活すれば早々に外資系企業から内定が出て、入社するまでの間に海外留学できる経済力がある。彼はいわば、最初からピカピカのエンジンがついていて、飛び立つための滑走路も用意されているジェット機。対する舞ちゃん(福原遥)は、中小企業の社長の娘。なかなか就職先が決まらず、やっと内定が出た会社からはリーマンショックのために入社延期の知らせが来る。まさに、飛べずに泳いでいるトビウオ。はるか上空を飛んでいるジェット機から海の中のトビウオを見たら「飛ぶんだよな?」「飛ぶための勉強もしておけよ」と言いたくもなるのかもしれない。舞ちゃんの実家もたいへんなことになっているのだけれど、遠すぎて柏木からは見えていない。彼はいつも「そっちに行こうか?」「大丈夫か?」と舞ちゃんに電話で尋ねるだけで、そして「大丈夫」という舞ちゃんらしい返事を受け取るばかりで、いつもあの1番ゲートから動かない。彼女の困難を直接見ようとはしなかった彼がやっと来た時は、遅すぎた。もう彼女は彼を自分の部屋には入れないし、一緒にうめづのお好み焼きも食べない。公園で話をする彼女は「あなたは私とは違う世界の人」と全身で言ってるみたいだった。航空学校の仲間と一緒の写真を抱きしめて泣いても、同じ学生だった頃には戻れない。