誰もがキャスティング・カウチは悪習だと分かっていた。だが、やめようと言い出すことができない。本作の原作となった『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』(新潮社)を読むと、弟のボブ・ワインスタインやワインスタイン・カンパニーの幹部たちが、ハーヴェイがセックス依存症状態だったことを知りながら野放しにしていたことにも触れてある。ハーヴェイはまさに「裸の王様」だった。

 グウィネス・パルトローが暮らす豪邸へ取材に行く際、ミーガンとジョディは共に記者らしくないガーリーなファッションで現れる。大手新聞社に勤める2人にとっても、ハリウッドの人気女優は憧れの存在なのだ。お互いに「おのぼりさん」っぽい衣装だと気づき、苦笑することになる。映画業界とは縁のない2人だったからこそ、ハーヴェイが「裸の王様」であることを記事にすることができた。

 アンデルセン童話で有名となり、権力者を揶揄する表現となった「裸の王様」だが、ハーヴェイ・ワインスタインを「裸の王様」にしてしまったのは誰だったのか? 

 アンデルセン童話では詐欺師コンビから「愚かな人の目には見えない」衣装を手渡され、王様は裸になって街を行進する。ハーヴェイを「裸の王様」にしてしまったのは、数々のヒット作を放ち、多くのアカデミー賞を受賞してきたというハリウッドにおける価値基準だ。実績さえ残せば、人格面での問題はスルーされてきた。ハリウッドという巨大産業の価値観が、有能な映画プロデューサーだったハーヴェイを「裸の王様」へと変え、増長させてしまった。