◆村井のセクハラ発言を残すか、議論があった

――左遷されたプロデューサー村井(岡部たかし)は多面性が魅力的ですが、登場したての頃は露骨なセクハラ・パワハラ発言がひどかったですね。みんなの前で恵那を「ババァ」「更年期」呼ばわりして。

村井
回を追うごとに、視聴者に村井ファンが増えていった(C)カンテレ佐野:あのセクハラ発言をどうするかという議論もあったんですよ。

このドラマは多種多様なおじさんが出てくるので、「おじさん百花繚乱」とあやさんは言っているのですが、セクハラ発言を残すかどうかの議論になったとき、あやさんは「おじさん達の抱える欲望を肯定はできないけど、『そういう欲望がある』こと自体は、ないことにしないほうがいい」と言っていて。

本当はあってはいけないけど、「芸術や文化は、欲望とか悪を受容するものだから」と。落語にもしょうもない男たちがいっぱい出てくるじゃないですか。

私自身は、そんなヤツらは全員排除したいと思っていますが(笑)、あやさんは「(欲望や悪を)ないように描いても、実際になくなるわけではないから」という考え方だったので、そのあたりは議論がありました。

――実際に、テレビの現場ではあんなセクハラ発言があるのでしょうか。

佐野:密室だったらあるかもしれませんね。村井がある意味まだマシなのは、オープンな場でああいう発言をすることで、それは少なくとも今は、現実にはいないと思います。そのかわり、例えば密室など姿を変えてあるところにはある。より陰湿に狡猾になっている気もします。

もう一つ、村井のセクハラ発言を残すことで、ファンタジーというか、ものすごく昔のドラマっぽく思われるのは嫌だという思いも私にはありました。ドラマの設定である2018年当時でも、あんなにオープンに言う人は、良い意味でも悪い意味でもいないから。

あと、ブスとか更年期という発言があるだけで、チャンネルを変える人がいるという恐れもプロデューサーとしてはありました。でも、それはあやさんに一蹴されましたね。

================

佐野亜裕美さん
佐野亜裕美さん
セクハラに限らず、『エルピス』は社会の、そしてテレビ局の暗部を描きつくします。政治家や警察を恐れて「後追い報道」しかせず、正義感を持った者は痛い目にあう。よくこのドラマが通ったな……と驚きます。

後編では、そんな『エルピス』がなぜ実現できたのかについて話を聞きます。

<文/田幸和歌子>

【田幸和歌子】

ライター。特にドラマに詳しく、著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』など。Twitter:@takowakatendon