日本でのCDデビューから24年。宇多田ヒカルが新たな黄金期を迎えているようだ。

 今年1月にリリースされた(CDは2月発売)最新アルバム『BADモード』はある種、キャリアの到達点となっている。初のバイリンガル・アルバムと説明されているとおり、〈宇多田ヒカル〉と〈UTADA〉が融合され、初期のR&B的なサウンドや、セルフプロデュースするようになった『Exodus』期のダンスサウンドをも更新したような作品だった。

 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のテーマソングとなった「One Last Kiss」を含む本作は、PitchforkやPopMattersといった米メディアが10点満点中8点を付けるなど、リリース当初から高い評価を受けていたが、この数週間ほど、さまざまな海外メディアが『BADモード』あるいは収録曲を年間ベストにピックアップしている。

 Slant Magazineが「2022年のベストアルバム50」で『BADモード』を(ザ・ウィークエンドやテイラー・スウィフトらを上回る)年間9位に位置づけたのを始め、PitchforkBeats Per Minuteなどがベスト50内に選んだ。またランキング形式ではないが、Pitchforkは「2022年もっとも進歩的なポップミュージック」の記事でもふたたび『BADモード』を取り上げているほか、GQ誌も年間振り返り企画の中で紹介している。

 曲単位では、フローティング・ポインツと共に手がけた10分超の「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」は特に評価が高く、Pitchforkは「2022年のベストソング100」で年間10位に、Slant Magazineも「2022年のベストソング50」で年間6位にしているほか、Resident Advisorの「2022年のベストトラック」でも取り上げられた。NPRの「2022年のベストソング100」では、タイトル曲「BADモード」が年間32位となっている。

 こうした評価の波は、『BADモード』の成熟した音楽性はもちろんのこと、“バイリンガル”作品であることからも生まれたものだろう。一方で2022年は『コーチェラ』への出演と、それを取り巻く評価も象徴的だった。

 世界最大級の野外音楽フェスであり、音楽を始めとしたさまざまなアートやテクノロジーの一大市場ともなっている『コーチェラ』(正式にはコーチェラ・ヴァリー・ミュージック&アーツ・フェスティバル)へは今年、アジア系のカルチャーを世界に発信しているプラットフォーム/レーベル『88rising』からのオファーを受け、88rising主催ステージに宇多田が立つことになった。「Automatic」や「First Love」といった往年のヒットも織り交ぜたパフォーマンスに沸き立ったのは、遠い日本の人々だけではない。出演後の「VOGUE JAPAN」誌(コンデナスト・ジャパン)のインタビューでは、「私が思っていた以上に、『Automatic』 と『First Love』 に対して、日本もしくはそれ以上の思い入れを抱いてくれている人がアジア全土にいっぱいいることを教えてもらって」と振り返り、88risingのCEOであるショーン・ミヤシロ(日系アメリカ人)からも「その2曲は外せない。絶対やってほしい」と要求されていたことを明かしている。