◆専門用語は平易な言い換えではなく、あえてそのまま

――読み始めると、画力の高さとともに、構成力、物語の力にぐいぐい引っ張られます。描き進めるうえで、「読ませること」へどんな意識を配りましたか?

専門用語は平易な言い換えではなく、あえてそのまま
写真はイメージです
ひるなま「『病院で聞いた単語をできるだけそのまま使う』ということには気をつけていました。同じガンでお困りの方がこの本を読んだ時、専門用語は平易な言い換えではなくそのままのほうが、いざ病院で聞き慣れない単語に囲まれた時の恐怖や不安を解消するのに役立ていただけるかなと」

――なるほど。確かにそうですね。編集部との話し合いのなかで、変更していった部分はありますか?

ひるなま「編集さんは、“わかりやすさと専門性”のバランスを適切に見てくださる方で、『わかりにくい部分』『注釈がほしい部分』などを指摘してもらいました。その反面、キャラクターの造形や全体の構成などは、ほとんど私の好きにさせてもらえたので、大きな変更は特になかったと思います」

◆虐待の話は二度三度とネームを練り直した

――執筆していくうえで、最も描きやすかったくだりと、最も時間がかかったエピソードを教えてください。

虐待の話は二度三度とネームを練り直した
写真はイメージです
ひるなま「描きやすさは全体的に変わりませんでしたが、時間がかかったのは(ひるなまさんのバックボーンが描かれる)5話の虐待の話です。最初はもっと、恨みがましくネチネチとした描き方だったのですが、編集さんのアドバイスでネームの練り直しを二度三度と行い、その当時は正直かなり疲れました(笑)。

 でも結果、生々しさを削ぎ淡々とした表現に留めてよかったです。あれは本当に、私の一番描きたいテーマを編集さんが理解し、誠実に原稿を見て下さったおかげだと、あとから痛切に感謝しました」

――漫画を描いて世に出すのだという思いは、入院中、それ以後も大きな力になりましたか?

ひるなま「そうですね。入院中はほぼずっと痛みとの闘いでして、特に術後の全く身動きが取れず虚空を見つめているしかない日などは、動かせるのが脳だけなので日がな一日『なぜ私がこんな目に』とネガティブな思考が頭を駆け巡ってしまって……。そんな時は『転んでもタダでは起きるものか!』という思いだけが、すがれるものでした」