このように、野田は「賞レース時代」に逆行するようなかけおちを評価していたわけだけれど、賞レースの重みが増し、見る側も真剣度を高めるなかで、そこで高く評価されたネタはどうしても参照すべき“基準”や、時代を映す“鏡”や、読み解くべき“謎”のようになってしまいがちだ。それは避けがたいことなのだろうし、私もそうやって見てしまったりする。

 もちろん、ある種の“基準”が強烈に打ち立てられるからこそ、その反作用で、賞レースにはそぐわないようなネタがより輝いて見えたりもする。今回のマヂラブによる紹介もそんな効果のなかにあるのだろう。そもそも“M-1的漫才”としてイメージされるかもしれないものから大きく外れるようなネタを披露してきたマヂラブ自身が、賞レースの反作用をうまく活用してきたはずだ。ただ、いまや賞レースはそんな”抵抗“も賞レース的文脈に飲み込みながら大きくなっている気もする。

 いずれにしても、賞レース以外にもいろいろな基準でいろいろな笑いが常にすでに評価されていることを、改めて確認するような番組だった。

 ――と、賞レースをつい真剣に見てしまう時代に、この番組もまた真剣に見てしまったわけだけれど。

 M-1で18代目のチャンピオンが誕生する前日、こちらでも新チャンピオンが誕生していた。

 17日『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(フジテレビ系)。もともと『とんねるずのみなさんのおかげでした』(同前)の企画だったが、好評につき定期的に特番で放送されている。改めて説明するまでもないかもしれないが、タイトルどおり、著名人の細かいクセだったり、日常の些細なひとコマなどをモノマネとして次々に披露していく番組である。

 なお、この企画の出演が、別の仕事につながる芸人たちも多数いるようだ。モノマネ対象の代役に呼ばれたり、浜崎あゆみのプライペートな誕生日パーティーに呼ばれたりするらしい。それを聞いて、もっと放送ペース(現在は年1回)を増やす必要性を感じた様子の石橋は言う。

「編成と話します」

 で、今回のチャンピオンはラパルフェの都留拓哉だった。森泉、阿部寛、大泉洋、『トイ・ストーリー』のウッディのマネで登場した都留。一つひとつのネタのそっくり度や、場面の切り取り方が秀逸なのはもちろんだが、他の人とコラボしながらたくさんのネタに登場し、そのすべてで笑いどころをつくった点も総合的に評価されての優勝という感じだった。

 個人的には、次のネタが好きだった。

・「石橋貴明とのクイズ対決で答えられそうな問題を答えられず後悔している伊集院光」(MAB)
・「『笑っていいとも』のテレフォンショッキングのゲストに来たとんねるず」のタモリ(ジョニー志村)
・「YouTubeチャンネルで親子初共演を果たす杏と渡辺謙」の杏(ゆずの花・ゆず姉)
・「後輩力の高い聞き役を演じるのが上手い伊藤沙莉」(石出奈々子)
・「初めてマラソンをする人にアドバイスをする高橋尚子」(小出真保)
・「昭和アイドルが好きすぎて子どものようなブチ切れ方をしてしまう爆笑問題・田中裕二」(伊藤瞬)
・「リアル姉妹だからこそ絶妙にシンクロする漫画『あさりちゃん』の作者・室山まゆみ姉妹」(阿佐ヶ谷姉妹)

 番組の「細かすぎて伝わらない」というコンセプトの性質上、初めて見るネタを評価したくなる。個人的には、芸能人を対象にしたモノマネが好きだ。

 あと、ひとつのネタの人数が増えて“劇団化”する感じ、なんだかなぁ。いや、ネタをつくる芸人や特番をつくるスタッフにとっては必要な見せ方なのかもしれないけれど、見ている側にとってはそんなに……という感じ。「細かすぎるってコンセプトなのに大掛かりになっちゃってる」みたいな面白さも、同じ手を多用しすぎてもう私は味がしない。細かすぎて伝わらないはずのネタを披露する人が多くなればなるほど、少なくともその人たちの間では伝わってるじゃん、と個人的には感じてしまう。

 ――まあ、真剣に見すぎなのかもしれない。もっとキンタロー。のおかしさのことだけ考えればよかったかもしれない。