放送作家の深田憲作です。
「企画倉庫」というサイトを運営している私が「あの企画はどこが面白いのか?」を分析し、「面白さの正体」を突き止めるための勉強の場としてこの連載をやらせてもらっています。
今回のテーマは「『M-1グランプリ2022』で優勝したウエストランドの漫才について」です。
私は漫才のネタを作った経験はありませんし、お笑いウォッチャーでもありません。ですので、お笑い芸人の漫才やコントに関するコラムは避けてきたのですが、今回のウエストランドの漫才は企画としての目線で切り取れる内容だと思いましたので記事にしてみました。漫才の中でお笑いを分析する人間に対しての言及もあったので、多少の躊躇はありますが……。
漫才の内容は、河本 太さんが「あるなしクイズ」を出題し、出題されたテーマに対して井口 浩之さんがクイズの正解を狙ったフリをしながら、毒を吐いていくというもの。「恋愛ドラマにはパターンがない」「YouTuberはうざい」「R-1グランプリには夢がない」など。
ツイッターで50代以上の方が「ツービートの漫才のようだ」と書き込みをされていましたが、私はツービートの漫才をしっかりと拝見したことがないのでその感覚はありませんでした。この漫才を見た時の私の脳裏には『クイズ☆タレント名鑑』(TBS系)の『芸能人! 検索ワード連想クイズ』が思い浮かびました。『クイズ☆タレント名鑑』は『水曜日のダウンタウン』(同)を手掛ける藤井健太郎さんが演出していて、テレビ業界的に藤井さんの名前が知れ渡るきっかけとなった番組です。
この『芸能人! 検索ワード連想クイズ』の内容は、インターネット検索で、ある有名人を検索した時に出てくる関連ワードを無作為に出していき、そこから連想される有名人を早押しで答えるというもの。
表面上はクイズとして行っているのですが、実際のところは回答者の有吉弘行さんやおぎやはぎさんらが、そのワードからネガティブな連想ができる有名人を、悪意を持って答えていくという楽しみ方をしていました。例えば、出題されるワードが「たぶん」だった時に「コシノジュンコ! たぶんゴリラってことでしょ?」「梅沢富美男! たぶん近所から嫌われてる」「矢口真里! たぶんバカ」といった具合に。
ウエストランドの漫才と共通するのは、回答者はクイズに正解しようとするテイを取りながら合法的に有名人をディスっていくという構造。ここが企画として秀逸なポイントだと思います。あくまで、表面的には「クイズに正解しようとしているんですよ」というスタンスで毒を放っていることが、面白さを引き立てているように思います。これが例えば「YouTuberのイメージといえば?」と、回答者の持つイメージを問うシステムだったら、同じように「うざい」と答えても面白さは半減するはずです。