◆ふたりの看護師が織りなす調和

 トラベルナースとは、ひとつの病院には属さない、渡り鳥のような存在。優秀な人材なら、日本から世界へ、世界から日本へ、世界から世界へ、各地を飛び回るのだろう。日本から世界(ハリウッド)へ飛び、箔をつけてきた現在の岡田将生には、やっぱりこれ以上ぴったりな役はない。

 歩と九鬼が働く「天乃総合メディカルセンター」は、拝金主義の院長・天乃隆之介(松平健)が独裁的に采配をふるっている。天乃が高額なギャランティを払うため大きな期待が寄せられる歩は、初日からちゃきちゃき働き、日本とアメリカとの違いを示すように実力を見せつける。一方、九鬼は、掃除ばかりしているように見えながら、ナイチンゲールの精神に裏打ちされた細やかな看護の力が、すぐに腕のよさを証明する。

 このふたり、まるで正反対だが、驚くほど好対照なコンビだ。看護師寮で相部屋になり、歩は待遇の悪さに不満たらたら。九鬼は謙虚を忘れないが、物腰の柔らかな中にうっすら狂気を漂わせる。「かのナイチンゲールは」を枕言葉に、放たれる底が知れない鋭い一言が、アメリカ帰りの歩のプライドを打ち砕く。一言言い終えると、わざとらしくけろっとしている九鬼をよそに、歩は、はじめこそ反発しながらも人間として根本的に鍛えあげ直される。

 ナースステーションで高身長が際立つ超絶イケメンな歩と恐ろしいほど折り目正しい九鬼、ふたりの看護師が織りなす調和が、なぜか心地いい。すこしずつ、すこしずつ、ときに性急に激しく、彼らの心の襞(ひだ)が紐解かれる。第2話以降、九鬼の謎が明かされていくとともに、中井貴一の職人技的な力技で、物語はあっちへこっちへ、それでもどこか確かな方向へとどんどん加速する。

◆トラベルナースを演じながら旅をする

 第3で、歩は、患者から訴訟を起こされる。その夜、寮の食堂で九鬼から「あなたはプライドだけが無駄に高く、感情も制御出来ないバカナース。のみならず、リスクヘッジも出来ないクソガキ」と言われ、さすがにかちんときて九鬼の襟首を掴んだ。そのあと、相部屋のふたりは嫌でも顔を突き合わせなければならない。意外にも口を開き、相手に素直に心を開いたのは歩だった。

 壁に腰をあて、片膝を立てた姿勢で、やや虚ろな表情だが視線は真っ直ぐ伸びる歩の姿は、『ドライブ・マイ・カー』で怪演した高槻役のあの美しい瞳にそっくりだ。目上の人から何かを教わるうちに自分の内面が劇的に変化する意味では、歩と高槻は役柄も似ている。いやぁ、ほんとうに不思議な魅力を持ったドラマである。

『ドライブ・マイ・カー』で見事に演技と向き合った岡田将生は、ハリウッドへ出て、アカデミー賞という世界の大舞台を経験した。トラベルナースの那須田歩は、アメリカでの仕事が認められ、日本へ帰国した。トラベルナースを演じながら、岡田将生もまた旅をする。いったい、どこへ? どんなトラベル(もしくはトラブル?)になるのか? そんなことを考えながら、この先も見ていたいドラマだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu