長澤まさみ主演のフジテレビ系月10ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』で、当初のどん底の評価から好感度を上げ続けている人物がいる。
『エルピス』は、架空のテレビ局「大洋テレビ」を舞台に、女性アナウンサーの浅川(長澤まさみ)と若手ディレクターの岸本(眞栄田郷敦)が、10代の女性を狙った「八頭尾山連続殺人事件」の真相をひょんなことから追いかけることになる社会派ドラマだが、初回の評価からここ最近一変しているのは、浅川と岸本が関わっていた深夜バラエティ番組『フライデーボンボン』でチーフプロデューサーを務めていた村井(岡部たかし)だ。
村井は、大洋テレビの大看板である報道番組『ニュース8』から万年低視聴率番組に飛ばされた元報道マンだ。第1話から連発されるセクハラやパワハラに満ちた言動には眉をひそめたくなるが、回を追うごとに見えてきた至極真っ当な職業倫理感や繊細な気遣いに、視聴者からの評価はうなぎ上り。第6話で、12年前に起こった八頭尾山連続殺人事件の目撃証言を覆す証拠を岸本が掴むと、村井は独断で放送を決行。大門副総理(山路和弘)から大洋テレビに圧力がかかっていることを知っていたため、報道に回すと潰されると判断し、真実を明るみに出すことを優先した村井の決断に、SNS上の視聴者は拍手喝采だった。
しかしこの独断決行は社内で問題となり、『フライデーボンボン』は打ち切り。関係者それぞれの人生は一変してしまった。岸本は経理部へ異動、村井は子会社へ左遷された。浅川だけは例外で、放送を支持した“視聴者への対応”として報道の看板番組『ニュース8』のメインキャスターに就任するという驚きの人事となった。岸本は、労働時間がきっちり決まっており、土日も完全休みという経理の立場を利用してさらに取材を進めるが、多忙のあまり岸本の話にはなかなか耳を貸さなくなる。
八頭尾山連続殺人事件の容疑者とされた松本死刑囚(片岡正二郎)に冤罪の可能性があることは『フライデーボンボン』の調査報道によって大衆の知るところとなった。しかし検察が圧倒的な権力を持つ日本で、いかに世論が盛り上がろうと再審やDNA再鑑定への道は甘くない。