多数派だからって“普通”なの?

 異性との出会いがないわけでもない、きっかけもないわけでもない。同性愛者というわけでもない。ただ、恋愛感情も性欲もない。彼女にとってはそれが“普通”で、それが心地よい。変えたいとも思わない。

 世間は“自分らしく生きろ”と言うわりには、社会的概念に縛られた範囲内でものを考え、行動しろと言う。自分らしいって何? それは世間が決めることなのだろうか。

 周りがしているからと結婚させようとしてくる母。友達と一緒に住もうとするとレズビアンだと決めつけてくる妹。社会のシステムは、常にマジョリティによる価値観で動かされている。でも、それが“普通”とされることに違和感を感じる人は多い。

 ところが、ひとたび声を上げると孤立してしまう。だったら勇気を出すよりも、無難に生きる道を選ぶことは、決して逃げているわけではない。にも関わらず、それすらも邪魔される世の中。

 そうやって、なぜ人は人を“普通”で縛ろうとするのだろうか。説明ができないのにも関わらず、多数派だからというだけで”あたりまえ”や”常識”になってしまっている価値観や概念の不安定さを、真っ向から描いている。

 作中の印象的なセリフで「生きている以上、恋愛からは逃れられない」というものがある。これは今作のテーマを言い表しているようなセリフのひとつだが、恋愛なんて、特に現代においては自由なもので、そんな呪縛のようなものではないはず。

 どこかに理解してくれる人は必ずいるし、恋愛や結婚という概念に縛られず、無理して他者と交じり合ったり、同調したりしない、平行線な関係だってあってはいいのではないかという希望も同時に描かれている。それは微かな光のようで、“普通”について悩む人の肩の荷を少しだけ降ろしてくれるかもしれない。

 一方で、作中の中でも少し触れられているのだが、子どもに多様性をどう教えていくべきかという問題もある。感受性が豊かな子どもたちに、”普通”という概念をどうフラットに伝えていくかなど、今こそ考えるべき議題が詰まった作品ともいえるだろう。

 

『そばかす』
12月16日(金)より、新宿武蔵野館ほかに全国公開

■スタッフ・キャストクレジット
監督:玉田真也 
企画・原作・脚本:アサダアツシ
出演:三浦透子 前田敦子 伊藤万理華 伊島空 前原滉 前原瑞樹 浅野千鶴
北村匠海(友情出演) 田島令子 坂井真紀 三宅弘城 

主題歌:「風になれ」三浦透子(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)

配給:ラビットハウス
(c)2022「そばかす」製作委員会