披露したネタがつまらないのに苦労を思いやって、「面白い」というわけにはいかない。そのネタは芸人たちの看板であり、事務所の看板にもなるものだ。絶対に妥協してはいけないものだ。そのマネージャーさんや作家さんの思いと、芸人たちのプライドが渦巻いているのがネタ見せなのだ。
僕がネタ見せする立場になったときに心掛けていたことがある。それはその芸人にとって「もうひとつの脳みそとなる」ことだった。
芸人をしていた頃、ネタ見せでされて1番嫌なことは「ネタを否定し、そのまま放置されること」だった。すごく嫌なことだが、これをする人はすごく多い。ネタ見せのほとんどはこれと言っても過言ではない。
ネタを否定するのはとても簡単だ。「つまらない」「わからない」「何がしたいの?」と言えばいい。ただ芸人サイドも「つまらない」「わからない」「何がしたい?」と思っていながら、どうすることも出来ない場合があるのだ。
そんなとき僕は「もうひとつ脳みそがあれば」と常々思っていた。だから僕がネタ見せをするときは、その芸人にとって「もうひとつの脳みそ」になり、新しいアイデアや、何かのヒントを見出せるまで一緒に悩もうと思っていた。
なので普通なら一組10分もかからないネタ見せが、稀に30分とか1時間とかかかってしまうことがあった。僕としては芸人時代にしてほしかったことをしているつもりなのだが、同時にこれはかなり芸人に偏ったネタ見せになってしまう。僕を雇った事務所サイドとしてはいい迷惑だったかもしれない。通常の何倍も時間はかかるし、すぐに結果に結びつくわけでも無いし、最悪の場合、芸人自体が僕の脳みそに全任せして自分で考えることをやめてしまう。
事務所からしたらたまったもんじゃない。