公開中の『THE FIRST SLAM DUNK』が絶賛の嵐となっている。
12月中旬現在、映画.comでは4.2点、Filmarksでは4.4点など、レビューサイトでは他の追随を許さない超高評価を記録している。かつて社会現象を巻き起こした漫画作品が完結から26年の時を経て、また伝説と呼ぶべきアニメ映画になったのだ。
公開前はあらすじすら不明という、意図的に情報を隠したプロモーションがされていたが、その反動かアツい感想が上映開始すぐにSNSを席巻した、だからこその本編のサプライズも楽しめたことを思えば、存分に成功していたと言えるだろう。それまであがっていた不安の声も、ほぼ全て払拭されたのだから。
テレビアニメ版の声優への敬意があった
もっとも、そのプロモーションにおける声優交代の発表のタイミングは、かつてのテレビアニメ版のファンを怒らせてしまった時点で悪手ではあった。だが、実際の本編では新しい声優陣の熱演にも賞賛の声が相次いでいる。
監督・脚本を手がけた井上雄彦は、公開日当時にアップされたインタビューにて、テレビアニメ版の声優陣について「お芝居をいったん捨ててもらわないといけなくなる。かつて育てられたキャラクターをいったん捨ててもらわないといけないことになっただろうと思うんですね」などと、プロフェッショナルとしての仕事への敬意があったこと、だからこそ新たな声優陣と共にキャラクターの演技を一緒に探していく作業をしていたことを語っていた。
実際の本編を見ても、声優陣それぞれがバスケの試合だけでなく、日常のドラマを描くパートでも、その未熟さも含めて愛おしい等身大の高校生のキャラクターに実にマッチしていた。井上雄彦という漫画家が、客観的には畑違いにも思える、アニメ映画の声優陣への演出という点でも手腕を発揮していたのは、良い意味で恐ろしくなるほどだった。
※以下、『THE FIRST SLAM DUNK』の具体的なネタバレは避けたつもりですが、原作を読んだ方にとっては内容を想像させる記述があります。ご注意ください。
ファンからの「一見さんは楽しめないと思う」意見も納得?
この『THE FIRST SLAM DUNK』で興味深いのは、『スラムダンク』のファンから「一見さんには向かない」との声があがる反面、『スラムダンク』をほとんど知らない人からの「予備知識がなくても楽しめた」という意見もまた多いことだ。
気になって筆者がTwitterで一見さんでもOKかというアンケートを取ってみたところ、(おそらくは原作ファンからの)意見の分布は見事なまでにバラバラで、それでも「一見さんは楽しめないと思う」が最多という結果になった。
その大きな理由は、説明がほとんど省かれている上に、「途中から物語が始まる」ことだろう。漫画がそれまで描かれてきたエピソードが映画でにはないため、原作ファンこそが「キャラクターに思い入れがない人は楽しめるのか?」と心配になることは当然だ。
さらには、「原作漫画を読んでいるからこそ感動できる演出」がある。特に、終盤のとある有名なセリフを「あえて聞かせない」ことは、後述する理由で一見さんに向けた演出としても英断であると思うし、そのセリフが「聞こえないのに(原作漫画を読んでいるから)聞こえる」ことに、鳥肌が総立ちするような感動があったのだから。
また、全体的には「原作とは異なるアプローチで語り直す」「物語の違った側面が見えてくる」内容とも言える。そうした面白さは、原作を読んでいた人の「特権」ではあるだろう。
何より、「井上雄彦の絵そのままのキャラクターが動いている」感動は、原作ファンであればあるほど大きいのは間違いない。カッコ良い「あいつら」が豊かな表情を浮かべ、コート上を駆け回り、何度も何度も諦めずに立ち向かって向かっていく。3DCGだからこその「空間」を感じられる没入感、漫画とは異なる表現そのものにも、新たな感動があるはずだ。