◆成長し続けながら、新しい生き方を探したい

――松本さんは何か見えてきましたか?

成長し続けながら、新しい生き方を探したい
『夜、鳥たちが啼く』より
松本「私が山田くんと違うのは、少しだけ休めたことです(※今春に1カ月休業)。実際の山田くんの心中は分かりませんが、凄まじい仕事の量をこなしていて、どこからそのエネルギーが沸き続けているんだろうと思います。耐えられないくらいの負荷がかかった中で表現を続けていて、本当に凄まじい人だなと。私は求められていない時期がすごく長かったので、求められたときに、応じたいと思って、全力で応えてきました。それが幸せなんだと。でもあるときから、全然幸せを感じられずに、『感じなきゃ!』と思っていたんです。それって幸せじゃないですよね。求められる状況は幸せなことです。でも私はこの幸せな状況を、幸せだと感じる心が今ないんだな。心を育てなきゃと気づいて、1度ストップすることにしたんです。それによって、ようやく幸せというか、自分の心が見え始めてきたような気がします。先にごめんね(笑)」

山田「おめでとうございます。羽化ですね」

松本「でもまたスピードが速くなってきていて、そのなかでも自分が幸せに感じられるかどうか、努力するのは自分だと思っています。必死に頑張った先に幸せがあると思って、極限まで頑張ってきました。これからはもっと自分に優しく、持続可能な幸せの感じ方で、なおかつ感性を研ぎ澄ましてちゃんといいお芝居ができるように。ちゃんと成長し続けながら、新しい生き方を探そうと思っています」

◆自分の本当にやりたい芝居ができた

――ありがとうございます。本作は、おふたりにとっても重要な作品になったようですね。

自分の本当にやりたい芝居ができた
松本「慎一と裕子の、傷のなめ合いから始まるラブシーンにしても、性的なことを超えて、生きるよすがじゃないけれど、ものすごく深い、あのシーンこそが純文学なんじゃないかと思いました」

山田「慎一には、愛の輪郭が見えたんじゃないかなという気がします。この作品の撮影中ずっと、『あれ、いつセリフ覚えたっけ』と思うくらい、自然に会話をしていました。自分の本当にやりたい、芝居ではない芝居をやりながら、慎一もちゃんと生きていた。裕子と、そして彼女の息子のアキラと3人でいる時間が、すごく幸せでした」

(C) 2022 クロックワークス

<撮影・文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi