◆最初は私たちも傷のなめ合いだった(松本)

最初は私たちも傷のなめ合いだった(松本)
『夜、鳥たちが啼く』より
――役を超えて、おふたり個人が放つ空気も影響し合ったんですね。

山田「たぶんまりかさんも、いっとき燃え尽きたような状態になっていて、僕も同じでした。そんななかでこの物語と出会いました。慎一というキャラクターは、考えて作っていくのではなく、感情を自分の奥から掘り起こして、僕の中にある慎一が出てくればいいと思ってやっていました。それを実際にできたのは相手役がまりかさんだったからだと思います」

――慎一と裕子は“傷のなめ合い”から距離を縮めていきます。もちろんおふたりは傷のなめ合いとは違いますけど、リンクした部分があったんですね。

松本「最初は私たちも傷のなめ合いだったような気がします。お互いの状況を理解できるという点で。でも傷のなめ合いって、意外と大事だと思うんです。それが共有できる相手ってなかなかいないのだから」

◆夢を叶えることと幸せになることは同義語ではない

――「何が幸せなのか」と思った時期もあったとのことですが、今現在、自分にとっての幸せは見えてきていますか?

夢を叶えることと幸せになることは同義語ではない
『夜、鳥たちが啼く』より
山田「俳優・山田裕貴としての幸せはすごく感じているんです。ありがたいなという状況が、ものすごく続いています。ただ、今までは、それと個人としての幸せが比例していると思っていました。でもそうじゃないと気づいたところです。夢を叶えることと、幸せになることとは同義語ではないんだなと。だからいまは模索中です。過去には戻りたくないし、今の状況はありがたいんです。ただ、この作品とも通じるんですけど、僕のことを見つけて欲しいというか。もちろんずっと応援してくれている人たちや、分かってくれている人もいるんですけど、でも“知らない人”が増えていっている気がするんですよね」

――“知らない人”ですか?

山田「僕のことをイメージだけで、『こういう人だろう』『こういう人だ』と思ってしまっていて、本当の僕のことを知らない人が増えていると恐怖を覚えるときがあります」

――なるほど。かつて山田さんは、「山田裕貴という存在を知ってほしい」と話していましたが、キャリアを重ねてきて、また次の気持ちになっているんですね。

山田「いろんな感情があって。でも今も、俳優・山田裕貴という存在を知ってもらうことに満足しているわけではないんです。迷いながら、探しながら、やり続けていけばいいと思っています」