――お笑い大好きプロデューサー・たかはし(TP)が見た、芸人たちの“実像”をつづる。今回は、『M-1グランプリ2022』準決勝レポートをお届け。
『M-1グランプリ2022』の準決勝が11月30日に行われ、今年のファイナリスト9組が発表された。僕は取材のため会場で激戦を見届けさせてもらったのだが、本当に手に汗握るすさまじい戦いだった。お笑いファンに浸透している有名な格言「全てのお笑いライブの中で賞レース準決勝が1番面白い」は間違いない。
さらに今回はファイナリスト発表記者会見まで参加させてもらったので、準決勝終わりから会見まで約2時間の空き時間が発生した。この空き時間の過ごし方についてたくさんの芸人さんが苦労しているのは知っていたので、用意周到にパソコンを持参して仕事をしようとカフェに入ったのだが、ファイナリストが誰になるのかソワソワが止まらず、ため息をつき、Twitterのトレンドを30秒に1回確認し、パンケーキを食べ、仕事なんか1ミリもできなかった。出てもいない奴がこんな有様なのだから、出場芸人たちはこの1000倍気が気じゃないんだろうなと思った。
準決勝の中身に関しては、決勝に進出した組はもちろん、敗退した組も敗者復活戦に挑むので、基本的に触れられない。ただ、ありがたいことにここ数年は準決勝を会場で見させてもらっているので、例年との比較くらいはできる。
今年の準決勝の印象は例年に比べてとにかく「大混戦」。いつも「この組は確実に決勝だ!」と思う芸人が何組もいるものだが、今年は少なかった。もっと言うと1組も自信をもって「確定」とは思えなかった。こう書くと「レベルが低かったのかな」と思われてしまうかもしれないけどその逆で、みんなが同じくらいウケているために、本当にどの組が抜きん出ていたのかわからなかったのだ。
惜しくも敗退した組の中でもシンクロニシティ、ママタルト、ヤーレンズ、令和ロマン、ななまがり、THIS IS パン、ビスケットブラザーズあたりは「これは決勝に行った!」もしくは「決勝で見たい!」と思った。もういっそのこと決勝2DAYSやってくれないかなと思うほどだ。せっかくなので、今挙げた7組の中でも特に敗者復活戦で注目のコンビ2組を紹介したい。
・ママタルト
体重180kg超ある大鶴肥満さんのパワフルなボケを、檜原さんがワードセンスあふれるツッコミで制していく漫才。とにかく2人とも楽しそうに漫才をしていて見ていてめちゃくちゃ楽しい。かつて僕が担当していた番組にママタルトが出演した際、楽屋にハンバーガーを差し入れると、檜原さんが「これと一緒に食べるほうがウマいやろ」と言っていつの間にか自販機で買ったコーラを肥満さんに渡していたのを見て「なんて仲の良いコンビなんだ!」と思ったことを今でも強烈に覚えている。そのガチの仲良しさがネタにも色濃く反映されている。
そして言わずもがな肥満さんの大迫力のボケは、初見のお茶の間にも魅力が伝わるのではないだろうか。肥満さんの体型からして敗者復活が行われる極寒の野外には絶対強いので、ぜひ躍動してもらいたい。まーごめ。
・ヤーレンズ
とにかく今年の『M-1』に対する意気込みがすごいと思った。2人とも衣装と髪型を新しくして、所属しているケイダッシュステージのホームページの宣材写真と今現在の姿がまるで別人なのでぜひ確かめてほしい。BEFOREの見た目は「センス系漫才師」という感じだったのだが、AFTERはかなり「コテコテのベタな漫才師」にイメチェンしたと思う。3回戦、準々決勝、準決勝と、そのイメチェンが完全にプラスに働いているし、本人たちもYouTubeチャンネルで話していた通り、今年のエントリーナンバーが「1111」なので開口一番自分らで「番号面白くない?」とイジらざるを得ないのが、幸か不幸か勝手に変な枷を背負わされていて二重に面白い。