◆「男性でいなければならない」という思い

Kotetsu(25歳)
Kotetsu(25歳)
 男性、女性どちらにも属さない「ノンバイナリー」を自認するKotetsuさん(25歳)。自身のアイデンティティが形成されるまでの経験を聞かせてくれました。

「もともと服装やメイクは性別を意識するより、自分の気分で好きなように選んでいました。当時はノンバイナリーという言葉を知らなかったですし、体に対する違和感もなかったので、『男性か女性どちらか選ばなければいけないなら男性だ』と思っていました」

 ノンバイナリーという言葉と出会うことで自身の性に気づいたKotetsuさん。さらに生きづらさを感じていたと語ります。

「自分の性のあり方を知ることでスッキリしたのですが、生きづらさを感じることのほうが多いです。社会のシステムや公共デザインは男女のためにつくられていることが大半で、そこに当てはまらないことで常に不安を感じます。自分のアイデンティティを見つけることができたのに、より生きづらさを感じる社会に放り投げられた感覚が強いです」

「夫」「男性」として求められることに苦痛を感じていたryuchellと同様、Kotetsuさんも周りが理想とする男性像に合わせようとした経験があるそうです。

「僕は恋愛対象が男性なのですが、ゲイ男性として見られることに違和感を抱えていました。と同時に、男性でいなければならないとも感じていました。多くのゲイ男性は性自認(自分の性別をどのように考えているか)が男性である人を求めているので、例えばマッチングアプリでプロフィールにノンバイナリーだと示すだけで、その人の選択肢から排除されてしまうんです。

 そのことを知っていたので、好きな人には男性として接しようとしたこともあるのですが、その人が求める男性像を演じることが徐々につらくなってしまいました」

◆“理想の夫像”の前提にあるネガティブな側面

 ryuchellに対するこれまでの世間の反応について、Kotetsuさんはこのように語ります。

「ryuchellさんは自分がしたいと思っていることをやって発信していただけの話ですが、それを“理想の夫”とひとまとめにされることで、世間がイメージする理想の夫像がネガティブな側面も含めてすべて集約されてしまった気がします。

 メディア側は丁寧に説明しなければなりません。ですが、読まれやすい記事を優先するために『夫』『男性』などとわかりやすい言葉を使い、本人の認識ではない側面が広まるのかなと。メディアの力によって、有毒なイメージが再生産されてしまったことが1つの要因として考えられます」

 あるメディアではryuchellが家事や育児を積極的に行っていることに対して賞賛する記事が掲載されていました。このことは世間のもつ男性へのイメージ、つまり「男は働いて家族を養う」のような考えが前提にあり、本来多様であるべき「男性」という存在が、一つのあり方としてまとめられる懸念があるのです。