◆女性としてでなく、自分として生きる

山田さくらさん(仮名・24歳)
山田さくらさん(仮名・24歳)
 ryuchellが「男」「夫」らしく生きなければならないと思うことで生きづらさを感じていたように、性別による“らしさ”の押し付けを感じる当事者は多く存在します。その1人である山田さくら(仮名・24歳)さんに話を聞きました。

「私は女性として生まれました。現在自認している性別は、男性でも女性でもありません。セクシュアリティは、強い信頼関係や絆がある相手にのみ、まれに恋愛感情を抱く“デミロマンティック”を自認しています。恋愛感情はゼロに近く、現在結婚しているパートナーとも恋人としてのお付き合いはしたことがありません」

 自身の性別が男女に当てはまらないと考えるようになったきっかけを語ります。

「始まりは、高校で気になる女性ができたことです。その頃から、女性を好きになるのは男性だけなのか、女性であることは何かについて考えるようになりました。その後、身近な人から性被害を受けたことがきっかけで、女性は性欲のはけ口にされ、受け身にならないと人に捨てられるものだと感じていました。いろいろなことが重なり、女性であることに対して嫌悪感を抱くようになりました」

 自分らしく生きていきたいと思う反面、夫として過ごすことに生きづらさを感じていたryuchellと同様、自分が女性でいなければならないと感じたこともあるのだとか。

「過去に異性とお付き合いしたことはほとんどなかったのですが、無意識に頭の中で“彼女”だからという考えが真っ先に出てきたのです。女性であることにとらわれて、世間が抱える女性の理想像を演じようとしていました」

◆周囲から“理想の結婚像”を押し付けられ…

 山田さんは自身のあり方を理解してくれる現在のパートナーと出会い、結婚しました。しかし、2人が幸せに結婚生活を送っていても、周囲からの批判に悩まされたそうです。

「籍を入れるとき、相手の姓ではなく私の姓を選択しました。パートナーはどちらでもよい考えをもっていたのですが、相手のお父さんが『苗字に合わせて名前を考えたから、息子の苗字を変えさせるわけにはいかない』と言い、大反対したのです。

 パートナーには妹がいるので、私は『娘さんが結婚して苗字が変わったらどう思うんですか?』と質問したら、『あの子は嫁に出ると思っているから問題ではない』と答えました。結局男だから苗字を変えないで、女なら名前の画数や文字数関係なく変えてもいいという考えなんだと思いましたね」

 結婚というあり方が一緒くたに語られることで、さまざまな人たちの生きづらさにつながっています。パートナー間で解決していても、世間の概念から外れることで批判の目に晒される可能性があるのです。

「その後、パートナーの父親からパートナーに『あんな極端な人間とは結婚しないで、普通の人を見つけてこい』とのメッセージが送られてきました。私たち2人で解決していることなのに、親からの介入があったり、男女の役割を押し付けられたり、結婚というものの敷居の高さを感じました。

 おそらくですが、ryuchellさんも私たちが経験したように、世の中は結婚を“パートナーシップ”ではなく、“家族単位のもの(親族全体を巻き込むこと、ひいては両家の合意のうえでするもの)”と認識していることを感じてしまったのかなと思います。2人がしっかりコミュニケーションをとって、お互いのベストな選択を見つけたなら、本来ならばそれに対して第三者が介入する必要はないと思うのですが……」