アナログ文化が見た、この世界の終わり

“特殊効果の神”が描いた地獄めぐり…甘美なり、世界の終焉『マッドゴッド』
(画像=地獄の業火を渡る、顔のないシットマンたち。不毛な労働に従事している、『日刊サイゾー』より引用)

 フィル・ティペットが『マッドゴッド』の企画をひらめいたのは、『ロボコップ2』(90)の撮影が終わった頃。地道に撮影を進めていたが、大きな時代の波がフィル・ティペットの工房を襲った。映画業界では『ジュラシック・パーク』からCG技術が全面的に取り入れられるようになり、ティペットが長年培ってきたアナログ技術は時代遅れのものとなってしまった。ティペット工房に世界の終わりが訪れた瞬間だった。

 結局、CGだけでは恐竜たちを生きているように見せることは難しく、ティペット工房の持つアナログ技術を併用することで『ジュラシック・パーク』は完成した。フィル・ティペットはデジタル時代に迎合することで、業界をサバイバルすることになる。

 過去の遺物、失われつつある文化を、CG全盛となった現代に蘇らせたのが『マッドゴッド』の世界だ。ティペットによる地獄めぐりは、思いがけないクライマックスを迎える。錬金術師による秘法や核戦争のビジョンを織り込みながら、『2001年宇宙の旅』(68)ばりにスケールの大きな世界へとイメージは広がっていく。アナログ時代を生きてきたクリエイターとして一度は死を覚悟したティペット、そんな彼自身が感じた臨死体験の記憶が本作なのかもしれない。

 人間は死ぬ瞬間に、走馬灯のようにこの世に生まれてからあの世にいくまでの記憶が蘇ると言われている。ひとつの惑星がその生涯を終えるときも、その惑星は天地創造から宇宙の塵に還るまでを夢想するのだろうか。

 映画界の生き神であるフィル・ティペットが描く世界の終わりは、とても恐ろしく、そして甘美でもある。観る人によって、また観る人のその日の体調によって、さまざまなイメージを喚起させるに違いない。あなたはティペットが生み出した狂気の世界から、何を見いだすだろうか。

『マッドゴッド』
監督/フィル・ティペット 撮影/クリス・モーリー
出演/アレックス・コックス、ニキータ・ローマン
配給/ロングライド PG12 12月2日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
©2021 Tippett Studio


提供・日刊サイゾー

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