日本のマンガはどんな風に紹介されている?
「韓国のマンガ事情~韓国漫画の歴史~」で触れたように、切っても切れない深い関係にある韓国と日本のマンガ。韓国では日本のマンガが数多く翻訳出版されており、中には「ドラゴンボール」「スラムダンク」など大ブームを呼んだ作品もあります。
そこで中編では、「韓国における日本のマンガ」をテーマに、翻訳版がどのように作られているのか、韓国のマンガと日本のマンガはどう違うのか、など様々な角度からスポットを当ててご紹介します。それでは、翻訳マンガの世界へオソオセヨ(ようこそ)~!
3大マンガ出版社・鶴山文化社の編集者にインタビュー!
左からチャン理事、ファン課長
「翻訳マンガについて詳しく知りたい!」と、韓国の3大マンガ出版社の1つであり「神の雫」を翻訳出版したことで知られる「鶴山(ハクサン)文化社」にお邪魔してお話を伺いました。
編集者出身で設立時から鶴山文化社に身を置くチャン・ジョンスク理事と、翻訳版「神の雫」の担当編集者でもあるファン・ジョンア単行本編集部課長が、お忙しい中快くインタビューに応じてくださいました。
(インタビュー場所:鶴山文化社1階マンガカフェ「COMIC COZZLE」※現在は別の業者が運営しています。)
韓国のワインブームを加速させた「神の雫」
Q、鶴山文化社が「神の雫」を翻訳することになったいきさつを教えてください。
ファン課長(以下課長):作者の亜樹直(あき・ただし)先生は、その緻密なストーリー構成で、もともと韓国でも知名度がありました。
6つのペンネームがあって、「金田一少年の事件簿」や「サイコメトラーEIJI」「クニミツの政」「GetBackers-奪還屋-」など様々なジャンルの人気作品を執筆されており、「神の雫」も複数の出版社が取り合う形になったんですが、幸い私たちが受け持つことになりました。
「神の雫」は人気作「サイコドクター」と同じコンビによる作品として話題性はありましたが、6つのペンネームについては知らない読者も多かったので、先生の作品コーナーを設置して「神の雫」をPRする書店もありました。でも最初は「ワイン」という限られたジャンルの題材のマンガが、まさか韓国でここまでヒットするとは思いませんでしたね。
チャン理事(以下理事):「神の雫」の場合は、すでに韓国でワインブームが起こり地盤ができていたので、絶好のタイミングでした。「神の雫」がワインブームに油を注いで、シナジー効果を生んだと言えるでしょう。
Q、「神の雫」の翻訳に関するエピソードをお聞かせください。
韓国語では「シネ ムルパンウル(神の水滴)」と発音
課長:タイトル決めで大分悩んだ思い出が…。「雫」という日本語はその言葉の持つ背景によって「ムルパンウル(水滴)」とも「ハンバンウル(一滴)」とも訳すことができます。
それで最初、「水滴」がいいか、それとも最高のワインの結晶という意味で「一滴」がいいかでとても悩みました。意味が明らかになった今にして思えば、「何をそんなに迷っていたのかしら」と笑い話ですけど(笑)
翻訳者がもっとも苦労していたのは、ワインの名前の表記です。フランス語やイタリア語、英語で登場するワインの名前がすべて日本式の発音表記なので、原語表記を調べてそこからさらに韓国語の表記を探すという二重の手間がかかりました。
理事:この作品は、最初から専門家の監修を受けて翻訳を行いました。こういう専門性を帯びた作品は、発音表記から事実資料まで、正確性が肝心ですから。それでも細かい部分について、最初はワインに詳しい読者から指摘やクレームもあり、試行錯誤を繰り返した作品です。
Q、韓国版ドラマ化について何か進展があれば教えてください。
遠峰一青はヨン様がモデルとなった
理事:まだ何とも言えませんが、引き続き協議中です。作者の亜樹直先生がペ・ヨンジュン氏のファンということで、ペ・ヨンジュン氏をキャスティングする、という程度のことは決まっています。
海外での映像化は、日本国内で先に映像化してから許可することがほとんどなので、「神の雫」も同じように日本でドラマ化した様子を見てからという話になっています。
日本大衆文化開放を前後して変化した翻訳マンガ
Q、昔の翻訳マンガを見ると、登場人物名やタイトルが原作と違うことがありましたが、最近はあまりないようです。いつごろから変化が?
理事:1998年の第一次日本大衆文化開放で、日本語出版物の発行が可能になった頃からでしょうね。それ以前は表向きは日本大衆文化に接することができなかったので、ほぼすべて人物名・地名など韓国式に変えていました。
例えば「SLAM DUNK」なら、「桜木花道」は「カン・ベクホ」、「赤木剛憲」は「チェ・チス」、「流川楓」は「ソ・テウン」という具合です。
これでアニメも放送されましたし、今でも読者には韓国名で知られています。日本の作品ということはみんな知っていましたが、設定まで日本式で受け入れる用意がまだできていませんでした。
完全版「スラムダンク」は、人物名以外は原作通り&右開き
また韓国のマンガは左開きなので、98年以前は日本のマンガは裏返し印刷していて、特にスポーツ物は作品内の文章と矛盾が生じることもありました。
でも98年頃からはインターネット上で日本文化に触れる機会が増え、むしろ韓国式に変える方が不自然で読者も望まなくなっていきました。
「SLAM DUNK」は26巻(1995年発行)から右開きになりました。今は変える必要がほぼなくなりましたね。
登場人物は全員「韓国人」
右利きは左利きに。ユニフォームには
ベタリと韓国語の学校名が
マンガの中では、地域名は「△△」に
赤線部分の전=田、중=中「クッキングパパ」102巻より
理事:過渡期には、日本名の漢字を韓国式発音に変えたこともありました。日本側から「せめて漢字名だけでも生かしてほしい」と言われてのことでしたが、逆に不自然な名前になってしまいました。
例えば「クッキングパパ」は、主人公の名前が「イルミ(一味)」、後輩の名前が「チョンジュン(田中)」と、日本名でも韓国名でもない中途半端な名前になっています。途中で日本式表記に変えた作品もありますが、これは100巻以上もある長編なので途中で名前を変えることもできず、今まで続いているケースです。