通訳や指導の仕事をしていると、受ける質問として一番多いのは「勉強法」です。この中には、通訳者になるための学習法を始め、英語検定関連の得点アップ法についてのお尋ねもあります。皆さんそれぞれ工夫をされつつ伸び悩みを感じてしまう。あるいは、通訳者デビューをしたいものの、なかなかそのチャンスが到来しない。そのようなことで悩んでおられるのですね。

まだ私自身が若かったころにこうしたご質問を受けた際には、それこそ一生懸命アドバイスをせねばと思っていました。私自身がトライした学習法や活用したテキスト、一日の勉強時間捻出法からタイマーなどの便利グッズなど、少しでも学習者のお助けになればとお話していたのです。

でも、ある時からこの方法をやめました。それは私自身が数々の自己啓発本やハウツー本を読んだ結果、以下のような考えに至ったからです。

「私はこの著者本人ではない。だから、私にはすべてが当てはまらない。」

これは大きな発見でした。著者の本には数々のヒントが満載です。ネットで「○○ハック」と題するページを見れば、参考になることが多数書かれています。でも、そうしたことすべてを吸収するのは難しい。なぜなら私はその著者と全く同じライフステージでもなければ、同様の価値観や環境に置かれてはいないからなのですね。

以来、学習相談を受けた際には、こちらからの助言を吟味するように意識しています。学習者が「○○というテキストを一日△△時間やってみたけれど、伸び悩んでいる」という具体的な方法をおっしゃれば、私の方もそれに即したアドバイスができます。でも、「おすすめのテキストは?」といった漠然とした質問については、原則として「公式問題集」と答えることが多くなりました。実施機関が発行しているものなら一番間違いがないからです。

「質問する」という行為は、それだけでも勇気あふれるものだと私は思います。たった一人で悶々と悩むのではなく、「その道をすでに歩んでいる人に尋ねてみること」は、一歩踏み出したことを意味します。大いなる進歩です。よって、すでにご質問者はそのように歩み始めたことで、ある程度の「答え」や「方法」をご自分の中で構築されていると私は思うのです。その具体的方法がたとえまだ顕在化していなくても、きっとそう遠くない将来に、その方は飛躍されると私は信じています。よって指導者である私は、相談者の話をじっくり聞く。否定しないで耳を傾ける。すると質問者も前向きのエネルギーを感じ取っていくのではと思うのです。