新型コロナウイルス感染拡大防止の対策としてテレワークが広がっています。“若者の地方移住”への期待の高まりや、新しい働き方として「ワーケーション」という言葉も聞かれるようになってきました。政府・地方自治体における地方移住やワーケーションの推進事例をいくつか紹介しながら、地方で働くことの可能性と、地方経済の課題や展望に迫ります。
テレワークの普及と、地方創生の期待
2020年6月に発表された内閣府の調査(新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査)によると、コロナ禍の影響下で何らかの形でテレワークを経験した人の割合は34.6%でした。
調査対象の3割近くがテレワークを経験しているといった働き方の変化は、政府が進める「地方創生」政策を後押しするとも考えられ、期待が高まっています。
もとより東京への一極集中と、地方における人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げるという「地方創生」政策の方針が発表されたのは、2014年の第2次安倍政権が発足した直後でした。
これ以来、新型交付金、政府関係機関の地方移転、国家戦略特区、などさまざまな政策が試みられていますが、東京圏への人口転入を2020年までに6万人減少させるという当初の目標は達成されていません。
これは、地方に若者を引き留めるに十分な魅力ある仕事と雇用条件がないことに起因すると考えられ、これまでもさまざまな対策が講じられてきました。
テレワーク普及の波に乗れ!地方の取り組み一例
それがここに来て、新型コロナウイルス感染拡大防止のためのテレワークの広まりにより、新たな局面を迎えるのではと期待されています。
あわせて、地方の魅力や自然を感じながら働き(ワーク)、休暇を取る(バケーション)といった新しいライフスタイルであるワーケーションも注目されています。こうした機会に地域活性化に生かそうとする次のような取り組みが始まっています。
- テレワーク移住に最大151万5,000円の助成金(茨木県日立市)
- 六甲山に会員制ワーケーション用オフィスを開設(兵庫県神戸市)
- 宮城ワーケーション協議会を発足し宿泊施設のリゾート型利用を促進(宮城県の自治体・宿泊業・金融業)
- 廃校を利用したワーケーションスペースの提供(鹿児島県錦江町)
- 秋田県への移住促進のため約1億6千万円の事業費を計上(秋田県)
テレワーク普及をきっかけに、地方での暮らしが選択肢の1つに
では、実際に地方の取り組みが功を奏し、都市部から地方へ人が流れることは現実的と言えるのでしょうか。あらためて、コロナ禍がもたらした“生活様式の転換”に目を向けてみましょう。
一般的なビジネスパーソンの中には、自宅と会社を往復する生活が定年退職するまで数十年間も続くことに、疑問を持っている人もいるでしょう。
期せずして広がりはじめたテレワークは、満員電車での通勤をなくし通勤時間を削減するというメリットがあります。また、企業サイドからは人口密集地に高い賃料を払って確保しているオフィスの意義を問う声も挙がっているようです。
コロナ禍によって普及しはじめた新しい生活様式は、「どのように働くか」「どこで働くか」など、働き方についての問題提起につながっています。
このような状況下で、仕事のために上京した人やせわしない都市部に勤める人にとって、地元へ帰るという選択や地方への移住を選択肢の1つとして考える人もいるのではないでしょうか。