8日に放送された『お笑いの日2022』(TBS)内で『キングオブコント2022』決勝が行われ、ビスケットブラザーズが堂々優勝しました。

審査員は昨年同じメンバーの松本人志(ダウンタウン)、飯塚悟志(東京03)、小峠英二(バイきんぐ)、秋山竜次(ロバート)、山内健司(かまいたち)が担当し、審査コメントでも大会を盛り上げました。

飯塚さんの「キスは禁じ手」をはじめ、舞台を一時的に暗くする「暗転」を多く使ったニッポンの社長・最高の人間の2組では、審査員と演者とのやり取りも見せ場となり、大会の流れに軸が出来ました。

こういったネタの要素と得点との結びつきや、現在のコントの傾向について、お笑い養成所の講師や、複数のお笑い事務所による若手芸人のネタ見せもつとめる構成作家の大輪貴史(おおわ たかふみ)さんに聞きました。大輪さんは、かつてピン芸人「大輪教授」として活動し、2007年にはR-1ファイナリストに選出されました。

◆松本人志「演技力がないとこれからは上がっていけない」がすべて

――去年の決勝は、優勝者・空気階段の1本目、消防士と警察官が危機的状況から力をあわせて脱出するネタ「火事」をはじめ演劇的なコントが多い傾向でしたが、今年はどのようなネタ傾向がありましたでしょうか?

<「演劇的」の定義が難しいところですが…。「高い演技力」「ストーリー性がある」「音響・照明の演出がある」「よくある漫才のようなボケ・ツッコミではない」といった要素であれば、今年は去年以上に「演劇的」だったのかもしれません。

「高い演技力」に関しては、松本さんが総評で「コントは面白いのは当然として、演技力がないとこれからは上がっていけない」と仰っていたことがすべてで、今回決勝に残ったすべての芸人さんが、高いレベルで「演技でも笑いを取る」ことをしていました。

また、「ストーリー性」では、東京03の飯塚さんが、や団とコットンを比較して審査した際に「や団はオリジナルストーリーに僕は見えたんですね。(コットンは)すごく面白かったんですけど、何かのラブストーリーを踏襲しているように見えた」と評価し、や団に1点高く付けました。

審査員それぞれの考え方にもよりますが、「ストーリー性」は、審査基準のひとつとなり、得点に結びついていることがうかがえます。

よって、ストーリー性があるコントが高得点となり、より視聴者の印象に残っているのではないかと思われます。>(大輪貴史さん 以下山カッコ内は同じ)

――たしかに、コットンの喫煙者の女性とのお見合いネタもラブコメ的で楽しかったですが、や団の「気象予報士が予報を外して責められる」という設定は、より独自のストーリーとして印象強いものでした。

◆「オリジナルストーリー」が「何かの踏襲」より評価が高かった理由

ここでなぜ、「オリジナルストーリー」が「何かの踏襲」より評価が高かったかを解説しますと…、「オリジナルストーリー」の方が「何かの踏襲」より笑いを取るのが難しいからなのではないでしょうか?

笑いの取り方のひとつに、「次に予想される展開を裏切る」というものがあります。

例えば、朝、「遅刻遅刻~!」と、食パンをくわえて家を出たら、きっと、曲がり角で転校生とぶつかりますよね。これは「何かを踏襲」しています。すると、ぶつかることはわかっているので、「ぶつかり方」「ぶつかるキャラ」「そもそもぶつかるかどうか」で笑いを作り始めることができます。

しかし、「オリジナルストーリー」はそうは行きません。「ずぶ濡れの男が気象予報士にバッタリあったら、普通、こうするよね」の「普通」が誰にもないからです。

こうなると、セリフや演技で次の展開を予想させ、作っていく作業が出てきます。その作業をしてしまうと「笑えるわけではない、ただの説明」が必要になり、それは、ネタ時間が決まっている賞レースではタイムロス以外の何物でもありません。

説明を感じさせず、自然にストーリーをつむぎながら、なおかつ笑いを濃密に盛り込んでいくのは実は至難の業なのです。

私も養成所の講師をしていますが、1年目の若手にはよく「説明セリフが多いから、まずはオリジナルストーリーではなく、よくあるドラマや映画をベースにコントを作ってみては?」とアドバイスします。このアドバイスも、上に行くには通用しない時代がそこまで来ていますね…。>

◆コントの進化とともに「漫才との差別化」が強まる

<そして、最も「演劇的」な印象をつけているのは、「よくある漫才のようなボケ・ツッコミではない」ことではないでしょうか?

コントは進化を続け、ここ最近は、「漫才との差別化」が強くなっています。

数年前まではコントと漫才の笑いの取り方にそれほど違いはなく、「おかしな人(ボケ)」と「常識人(ツッコミ)」のコントがたくさんありました。しかし、最近の若い芸人さんのコントは「ボケ・ツッコミ」ではなく、それぞれのキャラクターをしっかり演じ、そのやりとりで笑いを取っています。

同時に、漫才の終わり方として定番の「もうええわ」「いい加減にしろ」的な、「決裂」で終わるコントは非常に少なくなりました。今大会で言えば、完全にその形式で終わっていたのは、や団の1本目「よし、バーベキュー始めようか」「もう楽しめない!」くらいで、他は、ロングコートダディの「塚本さんの敗北でいいですか?」がやや近いニュアンスで、最高の人間は爆弾で物理的に決裂しましたが…、といったところでしょうか?

逆に、今大会で、コント中に何組の幸せなカップルが生まれたことか(笑)。ハッピーエンドで終わるのが、完全に流行っていますね。>

――思えばファイナルステージの3ネタ中2本はハッピーエンド(または近いもの)でした。

また、今年は特に「音響・照明の演出」を効果的に使用している芸人さんが非常に多いと感じました。特に音響は、直接笑いを取るものではなく、これまでだったら演者のリアクションだけで表現していたSEや、場の空気を作るためのBGMなどが使われていました。これは純粋に、作曲ソフトが一般化した、時代の流れに一因があるかもしれません。

これからのコントは、もちろん「演技力」「ストーリー性」もそうですが、同時にそういった「演出力」も、手軽に手に入る分だけ、求められるようになっていくでしょう。もしかしかたら番組からのアドバイスで、演出を追加した芸人さんもいるかもしれませんが。>

◆東京03飯塚「キスは禁じ手」笑わせやすいと評価が分かれる?!

――パーソナルトレーナーと女性客のネタを披露した、いぬの審査員コメントで、東京03飯塚さんから「やっぱりキスは禁じ手だと思うんですよね」かまいたち山内さんも「起承転結を意識して見るんですけど、起キスキスキスだったんですよ(笑)」というコメントが出ましたが、このあたりをどのようにご覧になりましたか?

<「キスは禁じ手」というのは、「面白ければなんでもいいじゃないか」という観点では、やや厳しいように感じる人もいると思います。

私自身、いぬのコントで大笑いしました。ただ、審査するとなったときに、評価が高くなりにくいのではないのでしょうか?

サラリーマンや大学生の飲み会で、男性が裸になったり、女装をしたりするのは、是非は置いておいて盛り上がることが往々にしてあります。「男性同士でキスをする」も、そういったことに近いですね。

それはつまり、「笑わせやすい」ということです。

前述の「『オリジナルストーリー』と『何かの踏襲』」の話にも共通しますが、笑わせにくい…、難易度が高いことをやったうえで笑いにつなげた方が、高得点につながりやすいと考えられます。

もちろん、いぬのキスは、演技・キャラクター・構成・運動神経も含めて、プロが作り出した土台の上に成り立ったものです。しかし、審査で優劣をつけなければならないとなったときに、そこが評価の分かれ目になったのではないでしょうか?

◆暗転は「諸刃の剣」

――「暗転の多さ」についてはいかがでしょうか?ニッポンの社長について、松本さんから「やっぱり暗転をたくさん使うコントってなかなか難しいですよね」と話が出て、最高の人間のときも話題になっていました。

暗転を使うコントは、昔からあります。効果的に使うことができれば、笑いは増幅しますし、暗転明けのワクワク感を煽(あお)ることもできます。

2時間のお笑いライブのなかで、1組くらいそういった芸人がいると彩(いろど)りが出ますし、観客の印象にも残りやすいですね。キングオブコントを、賞レースではなくネタ番組として観ている場合、そういう芸人がいてくれるとTVショーとしては楽しめる要素が増えると思います。

しかし、確かに暗転は「諸刃の剣」でもあります。うまくいけば上記のような効果はありますが、場合によっては、連続しないストーリーに「夢中度が落ちる」リスクはあります。

暗転したことで夢中度が落ち、冷静になり、脳内で次の展開を予想してパターン出しするのは、百戦錬磨の審査員にとっては、暗転の1秒もあれば十分かもしれません。

来年以降、暗転を多用する芸人は非常に少なくなると思われます。しかし、キスもそうですが、暗転も、臆(おく)せず挑戦していただきたいと個人的には思っています。他の人の逆を行くのがお笑いですから!

この空気で、暗転もしくはキスを多用して、優勝したらメチャクチャカッコイイですよ!もっとも、今回のニッポンの社長や最高の人間を超える暗転を多用したネタ、いぬを超えるキスを多用したネタを生みだすのは、相当至難の業だと思いますが…。>

◆今後のコントは作品性の高さとおふざけ要素の絶妙さ

――今後のキングオブコントについて予測や期待はいかがでしょうか?

<これからのキングオブコントは、冒頭で話題になった「演劇的」なところに似ているのですが。「非・演芸的」になっていくと私は考えます。

寄席でお弁当を食べながらでも見られるような、落語や漫才、手品といった演芸のラフな環境ではなく(それはそれでカッコよくて魅力あるものですが)、コントは、今大会で示されたような、音響や照明にこだわりが感じられる演出のものが増えていくと予想しています。

すると、いわゆる「作品性」が高まるのではないかとも思うのですが、そのなかで、実は作品性はそこそこに、絶妙な塩梅でおふざけ要素を入れてくる芸人が、今後、栄光を手にするのではないでしょうか?>

<文/女子SPA!編集部>

【女子SPA!編集部】

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