暦の上では秋に入っており、季節の移り変わりを感じることもある一方、まだまだ暑さの残る日々が続いていますね。今回は、この時期に特有の不調である「9月病」について、漢方の考え方と取り入れたいケアについて、「わたし漢方」の漢方アドバイザー「さっち先生」に詳しく教えていただきました。
「9月病」とは? どんな病気?
だるい、憂鬱……、季節特有の不調をもたらす「9月病」
――9月病とは、具体的にどのようなものですか?
夏の疲れを引きずって、身体のだるさや憂鬱な気分を抱えてしまう秋特有の不調です。
このような症状に心当たりがあって、何日も続いているという方は9月病かもしれません。午前よりも午後のほうが症状が軽くなるようなら、さらにその可能性は高まります。
病院に行くほどではないけれど、なんとなく辛いと感じる不調が多いのが特徴ですね。このような症状は重症化すると別の病気に連鎖したり、治るまでに時間がかかってしまうので早めの対策が大切です。
今年は不調になる要因が出揃っている……!?
――今年は特に注意が必要と聞いたのですが、なぜですか?
今年は特に歴史的ともいわれる「異常な暑さ」と大雨がもたらした湿気の影響を受けており、これまで以上に“9月病”を引き起こしやすい条件が揃ってしまっています。
漢方医学では、外部からの影響による病気の原因を「六淫(りくいん)」と呼びます。
・風邪(ふうじゃ)
・寒邪(かんじゃ)
・暑邪(しょじゃ)
・湿邪(しつじゃ)
・燥邪(そうじゃ)
・火邪(かじゃ)
これらは主に気候の変化を指しています。この変化が急激すぎたり強すぎたりして、身体の適応能力を上回ってしまうと、さまざまな不調を起こしやすくなってしまいます。
日本の夏の特徴ともいえる高温多湿の環境は暑邪と湿邪が負担になりやすく、さらに、空調で身体を冷やしてしまうと寒邪の影響も受けやすくなります。
ひとつでも大変なものがふたつもみっつもあれば、身体にとってはとても大きな負担になりますよね。
――たしかに今年の夏は雨も多くて、とにかく暑かったですよね。
ここ数年の中でもかなり大変でしたよね。暑いと眠れなかったり、つい冷たい飲み物を飲みすぎてお腹を壊したり、生活習慣が乱れて身体本来の力をダウンさせてしまいます。
ゲリラ豪雨や台風も発生しやすい時期なので、梅雨の時期に体調を崩しやすい方や気圧の変化に敏感な方は特に注意が必要ですね。
不調の原因は気候以外にもある
――気候以外にも原因はありますか?
あります。特にここ数年の流れとして多いのが、リモートワークの増加と外出機会の減少による運動不足や不自由さからくるストレスが原因になっているケースですね。
――ストレスも原因になるのですね。
そうですね。やはり精神的な負担が与える影響は大きいです。ストレスとひとことに言っても、イライラしたり落ち込んだり、人によって心の悩みというのはさまざまだと思います。
秋は、夏に消耗したエネルギーを回復させて、冬に備える大切な季節なのですが、日照時間が少なくなるにつれて鬱々とした思いを抱えてしまうという方もいます。精神的に不安定になりやすい時期なので、夏の疲れは放置せずにゆったりとした秋を過ごしていけるのが理想ですね。
体質にあった漢方を使うことが大切
――漢方は「体質にあったものを使うのが大事」と聞いたのですが、本当ですか?
本当です! 漢方は、症状だけではなく人それぞれの体質にあったものを使うことでより効果を発揮してくれます。
――体質はどのようにしてわかるものなのですか?
漢方医学の基本的な考え方のひとつとして、「気・血・水(き・けつ・すい)」というものがあります。
身体を構成する3つの要素が体内をバランス良く正常に巡っている状態が“健康”。反対に、身体に不調が出るのはどこかが欠けてしまっていると考えられています。
足りていないものや循環していないものは、人によって違います。この違いをさまざまな目線から判断し、わかる身体の傾向が「体質」です。
「体質にあったものを使う」とは、つまり、身体に足りていなかったり、循環していなかったりする要素を補って巡らせてあげるということです。たとえば、「気」が足りない人には滋養強壮の働きがある、「気」を補う漢方薬を。一人ひとり違うお悩みや体質に寄り添ってアプローチを考えていきます。
――なるほど! この時期に多い体質はありますか?
暑い夏をなんとか乗り切ろうとすると、身体はエネルギーである「気」を消耗するので、エネルギー不足の「気虚」という状態に陥る方は多いですね。だるい、起きられない、落ち込み、疲れといった症状が現れやすいです。
――他の体質の注意点はありますか?
普段は体力に自信がある方でも、長時間の労働や睡眠の乱れ、寒暖差などの負担がかかると自律神経が乱れやすくなり、気の流れが滞った「気滞」という状態になります。
暑さで胃腸が弱り食欲がなくなってしまうという方は、身体の養分になる「血」を十分に作れなくなるので、「血虚」という状態になりやすくなります。貧血、動悸、不眠、女性の方は月経トラブルなどの悪化の原因にもなります。
汗をかきやすい時期なので、水分不足にも注意ですね。そこに暴飲暴食が加わると、血がドロドロとして流れが悪い「瘀血」という状態になります。
反対に、水分の摂り過ぎで水はけが悪くなる「水滞」の状態を引き起こし、めまいやむくみ、下痢といった症状を起こす方もいます。
どの体質にもなる可能性があるので、気をつけていきたいですね。
――漢方医学独特の考え方ですね。
そうですね。
ただ、この症状があるので絶対にこの体質というわけではなくて、複数の体質を抱えているという方のほうが多いといわれるくらい複雑なのです。
今すぐできる“9月病対策”
――9月病にならないためにはどうしたらいいですか?
季節の変化に対応できる「健康な身体づくり」が大切です。日常生活が乱れていては、いくら身体にあった漢方を使っても効果を半減させてしまいます。
秋は乾燥が目立ち始めるので、呼吸器系がダメージを受けやすく、免疫も落ち込みやすい季節です。風邪もひきやすい時期なので注意しましょう。
――「生活習慣を整える」、わかってはいても、難しいです…。
お気持ちはわかります。一気にすべて変えるというのは続かないケースが多いので、ひとつずつ見直していくのがおすすめですよ。
この時期に特に大切にしたい睡眠も、夜ふかしをしない、寝る前にスマホを見ない、これだけで今までよりは質の高さを確保できます。これが習慣づいたら、朝日を浴びる、散歩などの適度な運動をするなどの新しい習慣を追加したり、他の生活習慣にも目を向けてみると良いのではないかと思います。
――ひとつずつと言われると頑張れそうな気がします。
暴飲暴食のようなわかりやすい生活の乱れだけではなく、気づかないうちに良くない習慣を続けてしまっているというケースが多いので、秋の夜長を使って自分の生活を見つめ直すいい機会にしていただけると嬉しいです。
――他に、取り入れやすいおすすめ習慣などはありますか?
身体をつくる上で欠かせない食生活ですね。
暑さのせいで内臓が疲れている時期なので、身体の負担になりやすい食べ物はあまり食べすぎないように心がけましょう。やはり、消化の良いものや疲れの回復の手助けになってくれる食材がおすすめです。旬の食材も、今の時期の自然の恵みをたっぷりと含んでいるので積極的に食べたいですね。
胃腸の負担になりやすい食べ物
・味の濃いもの
・油っぽいもの
・辛いもの
・冷たいもの
・甘いもの
・加工品
▶さっち先生メモ
ついつい食べすぎてしまいがちな嗜好品も多いですよね。食べてはいけないというわけではなく、食べる量に気をつけるのがポイントです。我慢に我慢を重ねてストレスが……というのは本末転倒なので、食べすぎないことが大切です。
疲れの回復におすすめな食材
・鶏肉
・豆類
・かぼちゃ
・山芋
・さつまいも
・しいたけ
・さんま
・鮭
▶さっち先生メモ
どれも夏に不足しがちな「気」を補ってくれる食材なので、気の消耗で疲れが目立つ方には特におすすめです。
心の安定におすすめな食材
・肉類
・カツオやマグロなどの魚類
・大豆
・バナナ
・アボカド
▶さっち先生メモ
“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンを作るのに必要なトリプトファンを多く含んでいるので、心が不安定になりがちな方におすすめ食材です。
身体を温める食材
・ネギ
・ショウガ
▶さっち先生メモ
夏の冷房や冷たいものの摂り過ぎで身体が冷えてしまっている方には、温めてくれる食材が有効です。飲み物も冷たいものより温かいものを選んだり、お水は常温にするのもおすすめですよ。
身体のほてりを摂る旬の食材
・梨
・ぶどう
▶さっち先生メモ
冷えよりもほてりが目立つ方には、旬の果物がおすすめです。きゅうりやトマトといった夏野菜と同じような効果を持ち、身体のほてりを鎮めてくれます。
毎日の習慣を見直して、秋の夜長を快適に
――今回は、わたし漢方のさっち先生に9月病の対策についてお話いただきました。さっち先生、ありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました。
秋分から冬至にかけて、日が落ちるのが徐々に早くなり夜の時間が長くなります。そんな秋の夜長を快適に過ごすためにも、夏に消耗した体を労わるためにも、毎日の習慣を見直すきっかけになればとても嬉しいです。
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