「そうですか。ならばミースケくんがキャリアである可能性は高いですね。」
「えっ・・・」というお母さんの反応を確かめながら詳しい説明を始めた。
猫ウイルス性鼻気管炎の病原ウイルスはヘルペスといわれるウイルスなのだが、気道の粘膜以外に神経にも親和性を持っている。このヘルペスに感染し風邪症状が出て免疫が作られ始めると、ヘルペスウイルスは逃げ場を求めて神経線維内に入り込む。神経線維の中にまで免疫は働くことができないため、ちょうど神経の中に生きたヘルペスを封じ込めたような格好になるのだ。
免疫が持続している間はヘルペスウイルスも身動きがとれずまったくの健康体と変わらないのだが、時間の経過とともに免疫が弱まり、また、発情行動などで体力を消耗して免疫力が落ちると、やおらヘルペスが神経線維内から出てきて悪さを始め、風邪症状を再発させるのだ。
今回のミースケくんの症状も新たな感染というよりは、ヘルペスを体内に持っていて、気温がぐんと下がり、体力の落ちた時期に再発ということになった可能性が高い。
「このようなヘルペスキャリアの猫ちゃんでは、定期的にワクチンを接種し、免疫が落ち込まないよう注意していくとこが大切なんです。」
「分かりました。この風邪が治ってもそのままにせず、定期的にワクチン接種を受けるようにします。」とお母さんの顔には愛情があふれている。
ミースケくんの場合、事情が事情なだけに「子猫のときにワクチン摂取をしておけば良かったのですが・・・」とは口に出せなかった。けれども、病原性のあるヘルペスに体内に侵入される前にワクチン接種をしておけば神経線維に逃げ込まれることはなかったことだけは間違いない。
「ミースケくんがキャリアになってしまったことは残念なことなんですが、上手に対処していけば、十分健康に暮らせますから心配は不要ですよ。」
そう言ってお母さんを元気づけた。
相変らずミースケくんは診察台の上でくつろいでいる。
「君なら少々のことがあっても大丈夫。間違いない。」とFeLVにもFIVにも感染していなかったミースケくんに思わず敬意を表したのだった。
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