美術館などで楽しむアート。観るものとして、その歴史的・文化的な価値を理解している人は多いかもしれませんが、お金の観点から考えたことはあるでしょうか。この記事では、利回りの高い運用も可能と期待を集めるアートの資産価値について紹介します。美術鑑賞が教養のみならず資産形成への道となるかもしれませんよ。リスク回避策としての分散投資によって、堅実な資産形成を考える若手投資家を対象に、アートの経済学を考えていきましょう。
美術展で楽しむ「アート」は、観るだけのものか
多くの人にとって、アート作品は美術展で鑑賞して楽しむものではないでしょうか。そのアート作品が“商品”でもあることを理解している人は意外と少ないかもしれません。もともと、文化的な価値に目がいくため、商品として意識しにくい面があります。そもそも作者の手にあるうちは、販売を目的につくられた商品とは本質的に異なるものでしょう。
ところが作品を創り上げた芸術家の手を離れ、画商やコレクターなどの手に渡った途端に、商品に変わるといっても過言ではありません。資産価値が高く、取引ニーズの強い商品の1つとしてアートは大きな市場を生み出しています。
1987年にゴッホの『ひまわり』を安田火災海上(現・損保ジャパン)が50数億円で落札するなど、1980年代から90年代前半にかけてのバブル経済のもとで話題になりました。今でも、富裕層は不動産投資などと同じく、投資対象の1つとしてアートをとらえています。例えば、ゾゾ創業者・前社長の前澤友作氏はアートコレクターとしても知られ、現代アーティストのバスキアやアンディ・ウォーホルの作品を売買しています。
アートの資産価値が高くなる理由
アートはほかの投資商品に引けをとらないほど、資産価値の上昇に期待がかかります。アート作品の作者がアート界で脚光を浴びることにより、過去作を含めたその作者の作品の多くが途端に値上がりするという現象が見られるのです。
つまり、アートは値段があってないような面があり、さらに販売価格の基準がない商品といっていいでしょう。この性質こそが、アート市場を盛り上げる要因となっているのかもしれません。
有名作家100人が手掛けたアート作品の値上がり率は、ここ20年において米国株式市場の動向を示す株価指数のひとつS&P500の2.5倍となっています。米ウォール・ストリートジャーナルによると、アートにおける2018年の利回りは10.6%と、投資商品の中でもトップです。
アートに価値を見出すのは歴史
ここでアートの経済学についても理解しておきましょう。アートの経済学――つまりどのような作品にどのくらいの値が付くかは、アートの歴史と深い関係にあります。歴史の流れの中で先端を表現できていることが評価のポイントです。
歴史の中で注目を浴びてきた数々の作品を知らなければ「どの作品が歴史の先端に立っているか」を判断できません。アート作品の価値を見出すには、アートの歴史への理解が重要な基準になります。
ときに画期的であったり、斬新であったりという判断も基準となる過去の作品がなければ評価できないでしょう。そのため、アートを購入する人は、周囲から作品への「審美眼」を評価されることになるのです。
財力の証とされる背景
アートの資産価値が高まる背景として、富裕層の教養と財力の指標となることが挙げられます。先に紹介した利回りを踏まえれば、アート作品を資産の1つとして保有することが、将来の価値の上昇やリスク分散にもつながっていることが考えられるでしょう。
著名な作家の魅力的なアート作品を保有していることがステータスとなり、財力の証にもなるのです。また芸術・文化振興をサポートしているパトロンのような印象も付きます。つまり、アートを所有することにより、企業の社長などの富裕層は、周囲に自らの知見・審美眼をさりげなくアピールできます。それが趣味としてのアートの目的であり、投資する目的にもなっているのです。
そう考えると、アートは富裕層のライフスタイルに広く浸透していく経済活動であることがわかります。