「長い時間をかけて証明していくもの」

二宮和也オファー秘話を語る『TANG』脚本家・金子ありさ「思わず安堵しました」
(画像=『女子SPA!』より引用)

――原作には、「そんなタングが、人が持つ数ある複雑な感情の中で理解したものは、愛だった」とあります。金子さんは、「自分を見つけるから、誰かを愛せる」と非常にコンシャスなコメントをしています。

金子:健の場合、物語の冒頭で、自分を見失っています。その時点で、自分はどういう人間で、何をしたらいいのか分からない。自分の正体が分からないから、満島ひかりさん演じる奥さんの絵美とも向き合えない。自分をみつけることで地に足が着いてちゃんと誰かと向き合えるんです。自分がないときに、恋愛で麻痺させると共依存になってしまいます(笑)。

 そうした主人公の他者に体する構えをいつも執筆で心掛けています。例えば、私が脚本を担当した『中学聖日記』(2018年、TBS系)で有村架純さん演じる聖(ひじり)は、婚約者に引っ張ってもらうのではなく、自分の足で歩きだすからこそ、好きな人と対峙できる。まずは自分の足で立つということが重要だという思いを込めました。だから今回の健の迷い方も自分を見失っている状態から始めました。

――健が絵美に、「もう大丈夫だよ」、「きっと大丈夫」と言う場面があります。この「大丈夫」はまさに自分がしっかりあり、互いに信頼し合っていないと相手に投げかけられない言葉だと思います。

金子:あの言葉は、ごまかしの「大丈夫、大丈夫」ではありませんよね。夢を持って、自分を見失っていなかったかつての健が戻ってくる。だから絵美は、この「大丈夫」を受け取ることができるんだと思います。

――『着飾る恋には理由があって』でも、川口さんと横浜さんの「頑張ろう」が同様の意味合いを持っていたように思います。

金子:これもまた、同じ方向を向いて、歩いていくためのふたりの合い言葉だと思います。

――その方向の先に愛があるんでしょうか?

金子:映画が終わったあとも健とタングの関係性は続きます。まだまだ家族になったばかりのふたりが、きっと今頃、ああでもないこうでもないと言い合っている姿が浮かびます。

 だから愛とは、どこかの時点で到達するものではなく、長い時間をかけて証明していくものではないでしょうか。

“清濁併せ持つ”二宮和也

――主演の二宮和也さんの印象はどうでしたか?

金子:製作チームの共通意識として。企画段階から二宮さん以外想像していませんでした。

――では脚本は、かなり二宮さんに当て書きされたわけですか?

金子:二宮さんでなければ、冒頭で健にゲームをさせていないです(笑)。そんなポップな一面に加え、ロボットとの心の交流を何百キロ、何千キロという旅路として繊細に演じられる方です。ロボットと共生できるファンタジー感も持っていらっしゃる。

――ロードムービーとして各場所へ移動する中で、二宮さんの表情がいろんなグラデーションになっていく姿が印象的でした。

金子:演技プランとして本能的に捉えられているんだと思います。タングと宮古島に行った場面の健をみると、もうほんとうに家族の顔になっていますね。パパのようでもあり、親友でもある。二宮さんの多彩な表情の素晴らしさです。

 そして個人的には、二宮さんには、とても人間らしい、清濁併せ持ったナチュラルさを感じます。普段は国民的スターとして文字通りきらきらしているのに、同時に等身大でリアルなご自分の姿を大事にされている。だからこそ、原作のベンが持っている澱(よど)みや濁(にご)りなど、複雑な感情を表現できるんだと思います。

――製作チームで二宮さんしか想像できなかったのは、二宮さんの清濁が決めてだったんですね。

金子:私個人の意見ですが(笑)でも出演オファーのタイミングは、ちょうど嵐の活動休止発表のあたりと重なってしまったようです。当然、断られる可能性もありましたが、製作チームではとにかく二宮さん版の健をずっと育て、改稿を重ねました。すると何かのご縁で、引き受けていただけることになり、思わず安堵しました(笑)。

「まるで親戚の感覚」

二宮和也オファー秘話を語る『TANG』脚本家・金子ありさ「思わず安堵しました」
(画像=『女子SPA!』より引用)

――二宮さんとはかなり昔にもご一緒されていますよね?

金子:二宮さんが連続ドラマの単独初主演を果たした『Stand UP!!』(2003年、TBS系)です。実は私も連ドラの初チーフを初めて一話から最終話まで担当しました。

――先日公演があった舞台『ようこそ、ミナト先生!』では、相葉雅紀さん12年ぶりの主演舞台の脚本を担当されました。

金子:そうなんです。企画としてはもちろん別個に動いていましたが、活動休止後にそれぞれの個人活動に移られたタイミングとなぜか重なりました。

『Stand UP!!』では高校生役だった二宮さんが、今回はロボットと冒険するダメ夫役です。月日の流れを感じ、「立派になられて」と、まるで遠縁の親戚のような感覚です。勝手にですが(笑)。

――2019年12月23日に東京ドームで行なわれた嵐の「シューティングライブ」を記録した映画『ARASHI Anniversary Tour 5 × 20 FILM “Record of Memories”』の堤幸彦監督にインタビューをしたときに、堤監督がまったく同じようなことを仰っていました。

金子:まさに堤さんは、『Stand UP!!』のチーフ監督です。そうしたご縁もありながら、しみじみ感じるものがあります。

巡りめぐる脚本家人生

二宮和也オファー秘話を語る『TANG』脚本家・金子ありさ「思わず安堵しました」
(画像=『女子SPA!』より引用)

――金子さんは、1995年に『ときわ菜園の冬』でフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、脚本家デビューのきっかけを掴みます。同作の脚本を再読していると、『TANG タング』との面白い類似がありました。登場人物である園とベンが34歳で同い年だったんです(笑)。

金子:それは気づきませんでした。

――『ときわ菜園の冬』は、ロードムービーの代表作であるヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』にインスピレーションを得ています。あるいは2007年に扶桑社から出版された小説『ひとこと、好きと言いたくて』も世界を巡る恋愛小説です。物理的な旅にしろ、心の旅路にしろ、旅の題材が多いように思います。

金子:小説デビュー作となった『ガールズ・ガーデン』(2004年)を20代女性向けファッション雑誌『LUCi』で連載していた2001年当時、28~30歳の2年間で連ドラを4本担当しました。やればやるほど力のなさを感じましたし、自分の筆はまだまだ弱いと実感していました。

 そこで月刊誌で小説連載を持てば、起承転結の構成力が鍛えられると思い、自分から出版社にお声かけをしました。毎月、起承転結を意識しながら小説連載を続け、連ドラの脚本と格闘していたところへ、『Stand UP!!』の仕事がくるんです。ストーリーテラーとしての修行の果てに巡ってきたのが、二宮さんの初主演ドラマだったわけです。

――金子さんの脚本家人生が物語のように巡りめぐり、二宮さんに繋がるわけですね。

金子:この映画で二宮さんに再会できたことを考えると、ここまで脚本家を続けてきたご褒美だなと思ったりもします。長い間、実力と実績を積み上げてきた二宮さんのお芝居に支えられ、三木監督のまなざしのもと、温度が宿る作品になったと思います。観終わったあとにまた、健とタングに会いたくなるような温かさがある気がします。

 観て下さった方にも、健とタングが心の中に灯るような感覚を共有していただけたらと思います。ぜひ、劇場のスクリーンであのふたりと出会い、彼らと共有した体験を持ち帰っていただけたらと願っています。

<取材・文/加賀谷健 撮影/山田耕司>

加賀谷健
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。 ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu


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