振り返る俳優として
そんな愛の人、若宮の大冒険は、非常に劇的な展開を迎えることになる。紅に片思いするもうひとりの想い人である地質学者の捨井(小泉孝太郎)が、何やら「大地震」というワードを度々ちらつかせていたことからも物語の結末はなんとなく予想はできた。2つの誘拐事件が時を超えて重なり、悲しい一族の秘話が明らかになるとき、物語世界は大きな力の変動によって瓦解する。その瞬間が、若宮最大の見せ場であるのがなんとも皮肉な話である。
蓮壁家の屋敷から走りだした車の荷台から、遠ざかる風景をみつめる若宮の視線に、いったいなにを読み込むべきだろうか? ここで筆者は岩田が出演した近作にある類似を発見した。大九明子監督作『ウェディング・ハイ』(2022年)で、かつての恋人を残したチャペルが移ろう車窓を切なくも爽やかな視線でただじっとみつめていた主人公の姿である。ここで岩ちゃんを、“振り返る俳優”として位置づけてみたい。
岩田剛典という俳優がもたらす“映画的な力学”
これは実際、筆者が行ったインタビューで本人に率直な感想として伝えたことである。すると岩ちゃん、「なるほど」と非常に感慨深い嘆息を漏らしていた。彼の反応をみて、岩田剛典を“振り返る俳優”だと指摘したのは、筆者だけだと自負している。この振り返り、後景への強力な引力を伴う。岩田が振り返る瞬間には映画的な瞬間が画面上に宿る。彼自体が引力となって、映画を向こう側から引っ張りだしたといってもいい。
岩田剛典という俳優がもたらす映画的な力学は、いつの日か、画面を越えて映画界にも地殻変動をもたらすのかもしれない。若宮潤一は、その端緒を垣間見せ、この夏を代表する記念碑的なキャラクターとなった。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。
ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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