若宮のひとり旅

岩田剛典がどうしようもなく愛おしい…『シャーロック劇場版』が描くブロマンス
(画像=『女子SPA!』より引用)

 では、『シャーロック劇場版』での獅子雄と若宮の関係性に何か変化はあるだろうか? シャーロキアン(シャーロック・ホームズの熱狂的ファン)に人気が高い原作の『バスカヴィル家の犬』は、コナン・ドイル作品の時系列からすると、「最後の事件」を描いたドラマ最終話の前にあたる。獅子雄がひょっこり戻ってくる「特別編」のラストが、「最後の事件」の後日談であるとすると、相変わらず仲良く探偵バディを組んでいる獅子雄と若宮が描かれる劇場版は、一応、「最後の事件」以後として、ホームズが唐突に復活したと考えるのが無難だろう。

 ただし、劇場版は、若宮のひとり旅としての意味合いが強い。本作は、若宮の独り立ちであり、彼の愛が試される大冒険でもある。瀬戸内海の離島にある財閥・蓮壁家で起こった魔犬伝説事件を解決するため、獅子雄と若宮は島へ渡るが、今回二人は基本的に別行動をとる。蓮壁家屋敷内でのいざこざは若宮に託し、獅子雄はひとりどこかへふらふら調査へ赴く。すこし間抜けな若宮だから、すべてが後手後手になって、事件はどんどん雲行きが怪しくなる。

 獅子雄と離れ、蓮壁家にひとり残された若宮は、長女・紅(新木優子)に気持ちを寄せる。事件の経過とともに彼の気持ちはより深まり、彼女を守りたいと思うようになる。それはちょうど事件の闇に捨て身で突っ込んで行こうとする獅子雄の身を案じる気持ちとどこか似ている。似てはいるんだけれど、これが愛なのかはわからない。

若宮の愛の理由

岩田剛典がどうしようもなく愛おしい…『シャーロック劇場版』が描くブロマンス
(画像=『女子SPA!』より引用)

 画面上で確認できるのは、若宮の紅への気持ちが本物だということである。蓮壁家の金庫が隠されている鉱山を調べるため、若宮が紅から鍵を受け取る場面。紅が鍵を掴み返し、静止しようとする。一瞬、ふたりの手元が映り、次に若宮の表情が捉えられる。すると暖炉の炎が彼の瞳に映り込み、一握の愛が宿る。

 ときどき若宮は、こういう繊細な表情を浮かべることがある。それを表現するのはもちろん岩ちゃんなのだけれど、彼は若宮の気持ちを100%、いやそれ以上に理解している。この若宮役が愛すべき人物なのは、岩田剛典という人柄が滲んでいて、まるで全身から愛を奏でるような美しさがあるからでもある。でも若宮は切ない。彼の一途な想いは紅には届かないのだ。

 獅子雄に対しても、基本的に若宮は片思いである。若宮は誰よりも愛を知っている。理由は簡単だ。愛を知っていなければ、誰か他の人を愛することはできないからだ。若宮の愛は思いやりでもある。なんだかんだと、獅子雄から十分愛をキャッチした若宮だからこそ、本作のひとり旅の大冒険では、獅子雄が預かり知らないところでひとりの女性を愛そうと思えた。メンターである獅子雄が常に側にいる安心感があるからこその愛情表現であるのだが。

どこまでも愛おしいブロマンス

岩田剛典がどうしようもなく愛おしい…『シャーロック劇場版』が描くブロマンス
(画像=『女子SPA!』より引用)

 紅の存在が、蓮壁家にとって因縁の誘拐事件の謎を解き明かすとき、紅のほんとうの両親を前にした若宮がこんなことを言う。

「名前を呼んであげてください」

 わかみーちゃんも成長したもんだ。そんなふうに獅子雄っぽくいじってもみたくなる若宮のたくましい発言である。こういう発言ひとつ考えてみても、その裏には必ず獅子雄という人が若宮のメンターとなって、二人は常に繋がり合っている。若宮は獅子雄を愛し、獅子雄も若宮のことを愛している。ただそれだけのことでないだろうか?

 といっても、それを間違っても「BL」だなんて安直なものとして捉えないでほしい。紅への気持ちによって確かめられるのは、獅子雄への信頼と愛だった。どこまでも愛おしいブロマンス(男性同士の親密かつ精神的な繋がり。ホームズとワトソンの関係性が典型的)である。獅子雄と若宮の関係性は、やっぱり一言では言い表せない。それぐらいグレーゾーンの幅が広く、ボーダーレスで、深い愛なのだ。