元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『女神の継承』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:タイ東北部イサーン地方、小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返します。
途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求めますが、ミンに取り憑(つ)いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在でした……。
『哀しき獣』『哭声/コクソン』の監督、ナ・ホンジンが原案・プロデュースを手がけ、ハリウッドリメイクされた『心霊写真』のバンジョン・ピサンタナクーン監督とタッグを組んだ、タイ・韓国合作の本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
目に見えないものに縋る危うさと、頼らずにはいられない人間の弱さ
信じる人は救われる、なんて言うけれど、それって本当だろうか。じゃあ救われなかった多くの人は祈りが足りなかったとでも言うの? 祈って願って乞(こ)い続けたのにもかかわらず、次々と起こる惨劇に蹂躙(じゅうりん)されるある家族の姿に、目に見えないものに縋(すが)る危うさとそれでも頼らずにはいられない人間の弱さを感じ、切なくて仕方なかった。
タイ東北部に根づく精霊信仰、その担い手である祈禱師の取材のため女神の巫女であるニムに撮影隊が密着する。ドキュメンタリータッチで丁寧に描かれるのどかな田舎の風習や湿度まで伝わってくるような大自然の風景は、やがてニムの姪であるミンが奇行を繰り返すようになり一気に不穏な雰囲気に包まれていく。
物理的に強そうな見た目のニムや働いている気配の感じられないニムの兄など、タイの田舎にいそうだな、と感じさせるリアリティある登場人物たち。そして手持ちカメラで切り取られる家族間の自然な会話などが、まるでこの物語が私たちの現実と地続きであるかのように感じさせ、恐怖映像の臨場感が倍増。
何者かに憑依され豹変するミン役ナリルヤ・グルモンコルペチの怪演すさまじく、ちょっとした瞬間の表情がもう夢に出そうで嫌になる。
映像としての恐怖はもちろんのこと、憑(と)りついたものの正体やそれにまつわる一族の因縁など、謎が謎を呼ぶ展開に引き込まれ、怖いのに目が離せなくなってしまう。