大喜びの彼、キャラ弁は大成功!
牧場に到着した2人でしたが、京子さんはあることに気が付きました。
「慌てていたからなのか、ランチバッグに保冷剤を入れ忘れていたんです。でも、車の中はクーラーが効いていたし、お弁当も冷えていたので問題ないと思っていました」
早速2人は牧場の草原にレジャーシートを広げ、お弁当を食べることにしました。Mさんはお弁当の中身を見るや否や「スゲー!」と驚きの声を上げ、キャラ弁の完成度に感激してくれたそうです。
しばらくの間、その完成度の高いキャラ弁を観察し、SNS用の写真を撮ったあと、ようやくお弁当を食べ始めた2人。「味もおいしいね!」と、どんどん平らげるMさん。
「彼が勢いよくほとんど食べちゃって、それに気づいて申し訳なさそうにしてたんですけど、想像以上に喜んでくれたので私も満足していました」
京子さんは嬉しそうに話してくれました。
うなってトイレに駆け込む彼
食後、しばらく牧場を堪能していた2人。京子さんがじゃれてきたヤギに夢中になっていると、後ろから「うー」とうなり声が聞こえました。
振り向くと後ろの柵にもたれかかって苦しんでいるMさんの姿があり、慌てて「大丈夫?!」と駆け寄ると、Mさんは返事もせずにトイレに駆け込んでしまったそうです。
「さっきまで普通に楽しそうにしていたので、急な事態に私も不安でした」
20分程経ってトイレから出てきたMさんは顔面蒼白で「食あたりかも…」と弱々しい声で言いました。
救急外来へ、まさかの食中毒だった
京子さんはぐったりしたMさんを乗せ、自宅近所の救急外来に駆け込みました。救急車を呼ぶことも考えたそうですが、道路情報を確認すると渋滞もなさそうだったので、以前世話になったことがある自宅近くの救急外来へ向かうことにしたそうです。
診察結果は単なる食中毒で、今日食べたお弁当が原因ではないかとのことでした。Mさんは2時間程ブドウ糖の点滴を打ってもらい、症状が落ち着いたのでようやく病院から解放されました。
そのままMさんを自宅まで送り届けベットに寝かせた後、心配だった京子さんはMさんの自宅に泊まることにしました京子さん。
「キャラ弁の完成度を上げるために、食材を何度も手指で触れ、おまけに保冷剤の入れ忘れで、雑菌の増殖が著しかったのだと思います。彼の笑顔のためと思っていたのに、自分のミスで苦しめてしまったのでかなりショックでした」
かなり落ち込んだ様子で語ってくれた京子さん。
彼の優しい言葉に涙
「本当にごめんね。私がしっかり気を付けていたらこんな事にならなかったのに」と、京子さんはMさんに何度も謝ったそう。
そのあと、少し体調が良くなってきたMさんは、優しい言葉をかけてくれました。
「そんなことないよ。確かに改善点はたくさん見つかったけど、今度作る時に気を付けたらいいんだよ。また、お弁当作ってね。今度はどこ行こうか!」
「猛省していた私には優しすぎる言葉でした。彼の前で思わず泣いてしまったんですが、あらためて思いやりのあるMさんのことが好きになりました」
当分キャラ弁は作れそうにないと話す京子さん。それでも、Mさんのために尽くしたいという気持ちは以前よりもぐんと深まったそうです。
誰だって好きな人には精一杯尽くしたいものです。でも、そういう時だからこそ、普段より冷静になることが必要かもしれません。悲しいことが起きてしまってからでは台無しですから。優しい彼でよかったですね、京子さん!
―シリーズ「夏のトホホ」―
<文/大杉沙樹>
大杉沙樹
わんぱく2児の母親というお仕事と、ライターを掛け持ちするアラフォー女子。昨今の情勢でアジアに単身赴任中の夫は帰国できず。家族団欒夢見てがんばってます。
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