ある日、夜遅く帰宅した武頼が卵を買ってくる。「なかったでしょ」と言う彼に、妻は言葉を詰まらせる。実は自分で買ってきていたからだ。それなのにすぐにはそう言えず、微妙な空気が漂う。  

ようやく買ってきたと打ち明けたあと、「言えばよかったね、ごめん」と彼女は言う。夫は「そうか……しばらく卵料理だね」と薄く笑う。「ですね」と妻も同調する。  

結婚8年もたった夫婦が、直接、相手の心に踏み込んでいない一例である。夫がセックスを拒むのは、セックスをしたら心を明け渡さなければいけないと思っているからなのだろうか。いや、むしろ心を明け渡しているからこそ、人はセックスに踏み込むのではないだろうか。あるいは同時にそれができるのか。そんなことを考えさせられてしまう。  

夫婦で、夫の上司のもとへ出かける。上司の妻は妊娠中だ。純の心はますます追い詰められていく。  

そして彼女は仕事を始める。職場で出会った10歳年下の真山(藤原季節)は、常にマスクをしている変わり者(コロナ禍という設定ではないらしい)。ところが彼は、案外、本質をついてくる性格で、純は面食らいながらも悪い印象はもたない。