【獣医師監修】犬の後天性心臓病
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

 生まれた時から、心臓病をもっている場合を先天性と呼ぶのに対して、生まれた後にかかってしまった病気を後天性と呼びます。
犬で多く発症する後天性の心臓病には、僧帽弁および三尖弁閉鎖不全症、拡張型心筋症、フィラリア症、心タンポナーデ、不整脈などが挙げられます。このうちフィラリア症はワンちゃんを飼っておられる皆さんならもう充分御存知のように、肺動脈や右心室・右心房に犬糸状虫と呼ばれる寄生虫が寄生することによって起こる病気ですが、きちんと予防薬を飲ませる事により確実に防ぐ事ができる病気です。

 これに対して他の病気は、こうすれば絶対にかからないという予防法は残念ながらありません。ただ、比較的よく発生することが解っている病気に対しては、あらかじめそれを知って気をつけておく事で、より早期に発見する事ができるでしょう。そして適切な時期に治療を開始することで病気の進行をゆっくりと遅らせたり、症状を小さく抑えたりすることが可能です。

(1) 僧帽弁および三尖弁閉鎖不全症

【獣医師監修】犬の後天性心臓病
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

 房室弁(僧帽弁と三尖弁)の閉鎖不全症は犬の心臓病の中で最も多く発生するもので、犬の心臓病全体に対しておよそ75%を占めています。特にマルチーズ、ポメラニアン、シーズー、チワワ、プードル、キャバリアなどの小型犬に多くみられます。年齢と共に房室弁が粘液腫様変性とよばれる変化を起こして弁の役割が充分果たせなくなり、心室から心房へと血液が逆流してしまう病気です。(※図2参照)

 粘液腫様変性の60%は僧帽弁だけに起こりますが、30%は僧帽弁と三尖弁の両方に、10%は三尖弁だけに見つかっているとの統計が出ています。血液の逆流が起こった心臓を聴診すると心雑音が聞き取られますが、6~9歳齢で聴診によって病気がみつかることが多いものです。そして16歳以上の犬の75%がこの病気を持ってしまうようになります。

 キャバリアは特別にこの病気に懸かる率が高く、より若い頃から発病して、病気の進行も速いという特徴があります。1歳齢という若い時期から見つかる事も少なくありませんし、2~3歳齢のキャバリアの約30%で血液の逆流が見つかったと報告されています。病気が進行すると逆流する血液の量が増し、咳が出始めたり、運動すると疲れやすくなったり、重症になると肺に水が溜まって(肺水腫)呼吸ができなくなってしまったりします。
早期に病気を発見するためには日頃の健康チェックの時にしっかりと聴診を受けることが大切です。

(2) 拡張型心筋症

【獣医師監修】犬の後天性心臓病
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

 心筋症には肥大型、拡張型、拘束型などがありますが、このうち拡張型の心筋症が犬で多く発病します。
拡張型心筋症は原因不明の心筋の異常によって心臓の収縮する力が弱まり、血液を充分に送り出せなくなってしまう病気です。心臓の内腔は風船のように拡張して見えます。(※図3参照)ドーベルマン、ボクサー、グレートデン、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー等の大型犬の雄に多くみられ、雄では雌の2倍以上の発病率が認められています。

 診断される時期は4~10歳齢が多いのですが、症状は重度になるまで見られず、発病していても病気が見つかるまでに長い期間が過ぎていることが多いものです。咳、呼吸の回数が多い、呼吸困難、失神、お腹に水が溜まる(腹水)、足先が冷たい等の症状が現れますが、不整脈が発生して突然死してしまう危険性が高い病気です。

(3) 心タンボナーデ

 心臓の外側にある心嚢膜と呼ばれる膜と心臓の間に、心嚢水と呼ばれる液体が多量に溜まって心臓の動きを損なっている状態を心タンポナーデと呼びます。発生の原因は特発性と呼ばれる炎症を主とするもの、著しい心房拡張によって心房が破裂したもの、心臓に発生した血管肉腫や悪性中皮腫などの腫瘍によるものなどがあります。
心臓はポンプとしての動きを心嚢水によって邪魔されることにより、全身の血圧は低下して、歯茎や舌が蒼白に見えたり、足先が冷たい、体に力が入らず立ち上がるのも難しくなるといった重篤な症状がみられる事も少なくありません。そのような場合には心嚢水を抜く緊急処置が必要です。脈拍が弱く、胸に耳を当てて心臓の音を聴いてみると心嚢水によって遮られるため音は小さく鈍く感じられます。

(4) 不整脈

 心臓の拍動は右心房にある洞結節と呼ばれる場所から一定のリズムで信号が発せられ、刺激伝導系と呼ばれるルートを伝わって心房から心室へと順に心筋が収縮することでおこります。
不整脈には心臓の拍動数が必要とされるよりも少ない徐脈性不整脈と多すぎる頻脈性不整脈に大別されますが、その種類は多く複雑で発生の原因も様々です。元気がなくてほとんど動きたがらない、運動すればすぐに座り込む、興奮したら倒れてしまうなどの症状がみられる場合は危険信号です。
胸に耳を当てて心臓の音を聞いてみると、リズムが不規則でバラバラであったり、飼い主さんの心拍数と比べて半分位しかない、あるいは2~3倍以上もあると感じられたら不整脈の可能性が疑われます。(※図4参照)

【獣医師監修】犬の後天性心臓病
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)
【獣医師監修】犬の後天性心臓病
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)
【獣医師監修】犬の後天性心臓病
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

 心臓病は心電図検査、血液検査、胸部レントゲン検査、心エコー図検査などを行って総合的に診断します。大切なワンちゃん達が何となく元気がないかなと感じられたら、またそろそろ高齢期になったかなと思われたら、まず主治医の先生に御相談しましょう。そして病気によっては、大学病院や専門病院などでより詳しい検査を受けてみることも必要となる場合があります。
お薬を飲む必要がでてきたら、それは生涯続けなければいけない場合がほとんどです。運動を制限したり、興奮しないよう注意したり、食事制限が必要なこともあります。ワンちゃん達がより快適な生活をより長く続けられるように、飼い主さんと獣医師が力を合わせて個々に応じたより適切な方法を選択していきましょう。


提供・犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)

【こちらの記事も読まれています】
犬が吐く理由は?犬の嘔吐の原因や対処法、子犬の嘔吐について獣医師が解説
【獣医師監修】「猫が撫でられるとうれしいポイントと絆を深めるコミュニケーション術」
犬の咳、くしゃみ、鼻水の原因とは?考えられる病気と対処法を獣医師が解説!
猫に好かれる人・嫌われる人の行動や特徴とは?
犬同士が仲良しの時に見せる行動・サインって何?