思わず感じる夏の爽やかさ

 というように、おどおどしていて、頼りない赤楚君的キャラが炸裂しているのだけれど、その一方で大庭が仕事に打ち込む姿はなかなかのものだ。中古車整備所で働く大庭が、車体の下に入り込み、懸命に整備する横顔は生真面目そのもの。いつになくあらわになった二の腕からは汗が滲む。表情はやっぱり困った顔なのに、非常にマッチョな印象を与える。

 石子が打開策をみつけ、羽男がカフェの店長を説得する場面では、外の待ち合いスペースにちょこんと座っている大庭がいる。赤楚君の縮こまったあどけなさは、反則技である。なんとまあ、大庭は石子の後輩であることが分かり、剣道部時代のちょっとした回想までおまけ付き。

 カメラが体育館を映すと、外光がフレアぎみで、道着を着た高校時代の大庭を初々しく捉えられる。あふれんばかりの笑顔をこぼす赤楚君の清々しい姿に、思わず感じる夏の爽やかさ。さっきの整備士の汗といい、彼は夏の俳優なのだ。高校時代を回想しながら彼ら三人が会話する駅のホームには、一瞬だけれどわずかに蝉の音が響いた。本作がどれだけ夏クールのドラマに相応しいかが納得できる。

二項対立を生きる役回り

 ところが、ここまでの展開はほんの序章に過ぎなかった。各駅停車がホームにきた瞬間、「あなた、隠し事、してますよね」という羽男の一言で、ドラマは本格的に動きだす。弁護士という役柄上、相手に迫ろうとする中村倫也の演技には凄みがある。大庭は、さっと電車に乗り込む。ホームに立ち続ける羽男が鋭い眼差しを送り、電車内の大庭が困った表情で首元をおさえる。このときの赤楚がほんとうに素晴らしい。電車のドアが絶妙なタイミングで閉まる。

 車窓は激しく移ろい、大庭の心の揺れ動きが描かれる。彼は明らかに動揺を隠せないでいる。どうやら大庭がいつもカフェの窓際の席に座っていたのは、整備所に転属される前に勤務していた販売支店のパワハラ証拠を押さえるためだった。石子と羽男が嗅ぎ回っていることを察知した他の社員が、大庭がパワハラの張本人だと告発してくる。小関裕太扮する同僚にパワハラをしていた証拠を逆にみせられる信じがたい展開である。

 誠実と疑惑。矛盾と真実。こうした二項対立を生きる役回りを演じる赤楚が、このあとこの二項対立をどのように超克するのか。