『星の子』などの原作者で、芥川賞受賞作家でもある今村夏子さんのデビュー作を映画化した『こちらあみ子』が全国公開中です。風変りな女の子・あみ子(大沢一菜)を取り巻く世界を描いた本作で、あみ子の父・哲郎を演じた井浦新さん(@el_arata_nest)にインタビュー。
井浦新さん
本作で長編映画監督デビューを果たした森井勇佑監督とは、監督が助監督時代にも仕事をしていたという井浦さん。哲郎を演じながら感じたことだけでなく、「生きていれば、続けていれば、いつかまた会える時が来る」と語る、映画人としての思いを聞きました。
演じながら気持ちが追いつかないことが幾度もあった
――あみ子の父親・哲郎を演じました。あくまでも井浦さん個人としては、哲郎の姿はどう映りましたか?
『こちらあみ子』より
井浦新さん(以下、井浦)「哲郎は、親として寄り添っているのか、そうでないのか。つかめない立ち位置でいますが、どこかであみ子に、自分に似ている部分も感じていたでしょうし、演じながら、僕はむしろずっとあみ子のことを考えていました。
あくまで哲郎を僕自身から見ると、自分とは離れたお父さんだなと思いますし、演じながら気持ちが追いつかないことが幾度もありました。でも哲郎自身もきっと悩んだり苦しんだりしているのだろうと感じていました。
あみ子への接し方として、哲郎自身、分からないことがたくさんあったのだろうし、時としてぶっきらぼうに突き放してしまったり、本当はつけられないはずの優先順位をつけてしまっていたのだと思います。決して子どもに関心がないわけじゃないのだけれど、本当に不器用なお父さんなんだなと感じていました。
観る人たちを誘導しないように、でも決して無関心なのではなく、子どもたちへの愛情はしっかり持っているお父さんとしていようと、僕自身は思っていました。ただ簡単に表情などに出したくなかったですし、“伝わりづらくいたい”とは思っていました」
娘役の姿に、デビュー当時の自分のことを思い出していた
『こちらあみ子』より
――哲郎の再婚相手である、あみ子の新しいお母さんを演じた尾野真千子さんとは何かお話しされましたか?
井浦「本作で重要だったのは、あみ子を演じた一菜(かな)を自由に、縦横無尽に泳がすことでした。あみ子との、予定調和にはならない、ある意味とても映画的な芝居というのは、僕は非常に心地よかったのですが、一方で、尾野さんとのお芝居は難しかったです。
というのも、僕らがある程度の芝居をして、崩壊しない空間を作っていく必要があるので。でも固めすぎるとつまらなくなる。そこのバランスがとても難しかったです。それから、僕と尾野さんは、デビューの状況が似ているんです。急に映画の世界に放り込まれたと言いますか。僕は是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』で、尾野さんは河瀬直美監督の『萌の朱雀』で。
年齢は違いますが、一菜の状況とも似ているので『一菜を見ていると、デビュー当時の自分を思い出しませんか?』という話をしたら、『そうですね』とおっしゃっていました。一菜は今回がデビューですが、誰かのデビュー作に立ち会えるというのは、本当にすごい、ステキなことだと思います」