ジェンダーレス、エイジレス、ルッキズム、……というような言葉が一般化してきたことによって人間に対する評価軸が多様になってきた。とはいえ、男女関係なく美しいものは美しい。若いものは若い。

美しくなければ若くなければダメっていうことではなく、問答無用に若くて美しいという存在は確実にあって、その前にはひれ伏すしかない。いま、その賞賛を存分に浴びている人物がいる。歌舞伎俳優の市川染五郎だ。

『鎌倉殿の13人』の凛々しい若武者・義高

松本白鸚(はくおう)の孫で松本幸四郎の息子、松たか子の甥に当たる。2005年生まれの現在、17歳。

歌舞伎界では注目の若手で、数年前からファッション雑誌のカラーページを飾り、今年22年、シュウウエムラの日本ブランドアンバサダーにも選ばれた。

(画像:シュウ ウエムラ プレスリリースより)

当人は美しい美しいと讃えられることに「不思議というか、どこが美しいんだろうって。ありがたいと思っていますけど、自分ではちょっと信じられないな」と感じている(6月4日配信 デイリー 市川染五郎「どこが美しいんだろう」鎌倉殿・義高に続き徳川信康役「割り切って演じる」より)が、染五郎さんの妖艶さは目もくらむばかり。

湿度の高い香港映画の雰囲気がある。例えば「さらば、わが愛/覇王別姫」みたいな作品が似合いそう。あるいは、大島渚監督の『御法度』における松田龍平さんのような役が観てみたい。

ああ、誰か今の彼で映画を撮って。今しかない。そんな想いを少し叶えてくれたのが大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)だった。鎌倉幕府の執権として実質実権を握った北条家の物語。前半は源平合戦が描かれて、歌舞伎『勧進帳』で義経を演じている染五郎さんなら義経がお似合いと思ったが、木曽義仲(青木崇高)の息子・義高もなかなかよかった。

三谷幸喜さんによる『鎌倉殿』の義高は、見た目もいいし腕も立ち、父を尊敬している立派な少年。凛々しい若武者が染五郎さんにぴったり。

悲しい最期は大河ドラマのベストシーンのひとつ

ある回では、刀を抜いたとき左右にいる敵をちゃんと見る真剣さが良かった。丁寧なお芝居は気持ちよいものだ。その一方で、セミの抜け殻を集めているという奇妙な癖がある。義経(菅田将暉)はそれを人に言わないほうがいいと若干引き気味に助言。でもお別れにセミの抜け殻をプレゼントする。それをもらった義高の扱いには度肝を抜かれるものがあった。単に真っ直ぐ純粋なだけでなく、思春期特有なのか、どことなく屈折した感じもある。

頼朝(大泉洋)が実力のある義仲を牽制(けんせい)するため、表向きは娘・大姫のお相手ということにして義高を人質に迎える。純粋な大姫と義高は心を通わせるが悲しい別れが待っている。まるでロミジュリみたいだった。

剣の腕が立つにもかかわらず追手に立ち向かおうとすると、不運にも大姫との思い出の品が義高の足を引っ張ることになって……。なんという運命の皮肉。悲しいけれど、それも物語としては極上の後味となるのだ。義高の最期は鮮烈に心に刻まれ、決して忘れらることはない。今後『鎌倉殿』の、いや大河ドラマのベストシーンのひとつにも数えられることだろう。

現実の世界では、災害やコロナ禍、戦争など気分が沈みがちなことが蔓延し続けているため、私たちは悲しい話への免疫が減少気味。だが、木曽義高の悲しい死は、悲しみを120%体感できて、逆に気分転換になった気がする。泣くことでストレスを洗い流すセラピー効果とはこういうことではないだろうか。