小さすぎてなかなか気づかない奇跡
本作で描かれた立場も年齢も超えた友情は、言うまでもなくBLという題材に限らない。創作物や趣味に触れて、ただそれだけでも幸せだったのに、それが好きな人同士の一生ものの出会いをもたらしてくれることは現実にもある。本作はその出会いと友情と、その先にある“小さな奇跡”をも肯定してくれるのだ。
その小さな奇跡は、すべての好きなものがある人の日常および人生に、少なからずあるものだが、小さすぎてなかなか気づかない。それを今一度認識させてくれること、共通する趣味を持つオタクな友だちがいたり、“推し活”をしている人たちが自己肯定できることこそ、本作の最大の意義だろう。
さらには、巡り巡っての小さな奇跡「だけじゃない」ことも本作は肯定してくれる。それもまた、すべての人の日常および人生で起こりうることであり、もはや肯定を超えて祝福をしてくれるような優しさに、震えるほどの感動があったのだ。
悪い人がひとりも出てこない物語
ここまで書いてきて、さらなる本作の重要な特徴に触れていなかった。それは、「悪い人がひとりも出てこない」ということだ。もちろんBLを否定したり、悪く言う人もいない。
強いて言えば、主人公が好きなことを隠していたBLに対して、心ない“ウソ”をついてしまうシーンはあるのだが、それは彼女が一人相撲を取っているにすぎない。(もちろんある程度の節度は必要だろうが)BLに対して後ろめたい想いを持っていたり、好きなことをひた隠しにすること自体が取り越し苦労であり、好きなものは好きな人同士で、思いっきり語り合って良いんだという当たり前のことも、本作は教えてくれる。
筆者は終盤で「ありがとう」と作り手に感謝をしつつ涙するしかなかった。好きなものがある人へ、本作が届くことを願っている。
<文/ヒナタカ> ヒナタカ
提供・女子SPA!
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