宮本信子と高橋恭平も最良のキャスティング
もう1人の主人公と言える、老婦人を演じた宮本信子もこれ以上のないキャスティングだ。BLを、好きを超えて愛してしまっていく過程や、BLの「ちょっと踏み越えた」表現に対して「あらあら……!」と戸惑いと興奮が入り混じる声と表情が、かわいらしくって仕方がない。下世話な表現だが「おばあちゃん萌え」を期待しても裏切られないだろう。
うららの幼なじみの男の子を演じた高橋恭平(なにわ男子)も重要な存在だ。彼は、隠れオタクで非リア充役の芦田愛菜とは対照的に、周りと打ち解けるばかりか美人の彼女もいて、それでいて誰にでも優しい良いヤツで非の打ち所がない。しかも、単なるリア充というだけでもない、彼の隠された“弱さ”が終盤の劇で重要になっていた。表面的にはただただ魅力的でまぶしい存在に映る役柄に、高橋恭平その人のスター性が活かされていたと言っていいだろう。
創作物の“想い”は人を動かす
メタモルフォーゼの縁側 映画記念BOXセット(KADOKAWA)
劇中のBLマンガは、現実でもBL作品で人気のマンガ家“じゃのめ”が描いている。主人公が熱狂的にハマる理由に大納得できる、作品そのもののハイクオリティーぶりを実現したことも賞賛されてしかるべきだろう。
加えて重要なのは、主人公がある理由で描くことになるBLマンガの絵柄が、客観的にはどう見ても、申し訳ないが下手なことだ。こちらを“あえて下手に”描いたのは原作マンガの作者である鶴谷香央理であり、その下手さ加減こそが、主人公が「これでお金をもらうなんて、私は正気か?」と我に返ってしまうほどの心理に説得力を持たせていた。
その主人公が描いたBLマンガが、どのような顛末になるかは秘密にしておこう。だが、客観的には下手な絵柄であったその作品が、劇中で最大の感動を与えてくれることだけは明言しておく。そこにあったのは、上手い下手に関わらず誰かに届く作品はあるということ、創作物に込められた“想い”こそが人を動かすのだという普遍的な事実だった。
また、原作マンガのエッセンスを大切にしながらも、独自の演出、変更された舞台、約2時間という時間内に納めるための工夫、何より創作物に込められた“想い”を届ける過程もまた完璧と言える出来栄えだった。原作ファンにとっても、新たな感動があることだろう。