日本映画をけん引し続けている、俳優の小林薫さん(70)と余貴美子さん(66)。『顔』『闇の子供たち』の名匠・阪本順治監督が、伊藤健太郎さんを主演に迎え、その場しのぎの人生を送ってきた青年・淳と周囲の関係を描いた『冬薔薇(ふゆそうび)』で、おふたりは淳の両親を演じています。
余貴美子さん、小林薫さん
人によって受け止め方の分かれる本作のラストについてや、おふたり自身の転機となった出会い、また役者業への思いを聞きました。
最初は疑問だったラストに感動
――ラストを迎えてなお、色々と考えさせられる映画です。
小林薫さん(以下、小林)「僕は正直、最初に脚本を読んだ段階では、映画的にどうなんだろうと思っていたんです。もっとドラマチックにしたり、アップグレードしたりもできるはずなので。でも、出来上がった作品を観終わったときに、登場人物たちを自分にとってすごく近い人たちに感じられたんですね。年齢も姿かたちも状況も違いますけど、分かりやすく言うなら、『淳は俺なんじゃないか』と。いい意味で驚きましたし、なんだか感動しました」
『冬薔薇』より
余貴美子さん(以下、余)「私は、詳しくは言えませんが、最後の淳の選択も、頑張って生きようとしているんだなと解釈したんです。あと阪本監督の決してドラマチックではない、感情を吐露したりしない、この夫婦のセリフの連続がよかったですね。だいたい普段、過去に何があったとか、そんなこと話したりしませんよね。そのうえで、この人たちの過去を分からせないといけない。あの感じもよかったですね」
小林「夫婦が何かのテーマを持って喋ったりしたら、だいたい喧嘩になるしね(笑)。それを避けようとするから、余計にその話題から遠ざかったり」
余「生活にドラマがないのがイヤだという、この奥さんの気持ちも分かりましたね。つまらない、めんどくさい。でも生きるってそういうことの連続なのかなって」
ターニングポイントとなった30歳前後の出会い
――おふたりとも素晴らしいキャリアを重ねていますが、たとえば30代くらいのころを振り返るとどんな時期でしたか?
『冬薔薇』より
小林「僕は30歳少し手前で劇団(状況劇場)を退団したんです。そこから1年間は、すぐに映像に行くのもよくないと思っていたので、半年間くらい何もしていませんでした。そのうちに声をかけてくれる人がいて、徐々に今に繋がっていきました。劇団とかにいれば、要はあて書きというか、お前のために書いたよということもあるわけですけど、世間的に別に自分に注目してくれる人がいるかも分からない状態だったなか、向田邦子さんや久世光彦さんといった方々と出会えていった時期ですね」
余「私もちょうど舞台(オンシアター自由劇場)から映像のお仕事に移行していった時期でした。会う人会う人、知らない人ばかりで、でもそうした出会いによって、変わっていけた気がします。私はその時期に神代辰巳監督と出会ったことが大きいかなと思います。それまで、演技に関して何が分かっていて分かっていないのかも分からなかったのが、自分で“分かっていないことに気が付いた”年齢だったのかなと思います」