突然ですが、荒川修作という芸術家をご存知でしょうか? 岡本太郎にかわいがられ、1982年には紫綬褒章も受賞するほどの実力の持ち主であると同時に、三島由紀夫からもらった本を三島本人の眼の前で投げ捨て大喧嘩になるなど、一風変わった人物でもありました。そんな彼が1995年、アメリカの詩人であるマドリン・ギンズと共同制作したのが岐阜県・養老駅の近くにある養老天命反転地です。今回は、不死を追い求めつつも2010年に亡くなった荒川修作の構想が現実になった不思議空間“養老天命反転地”を紹介します。
迷路のような壁の広がる養老天命反転地記念館
養老天命反転地への入口となるチケット売り場を抜けると、すぐ近くに養老天命反転地記念館があります。トイレや、養老天命反転地を紹介する映像が流れるテレビ、施設の構想図がおかれており、探索の拠点になる場所です。
ですがこの養老天命反転地、記念館からして普通ではありません。内部は色鮮やかな迷路のようになっており、反転した壁が天井にまであります。まずはここで映像やパンフレットを確認し、養老天命反転地を探索するための準備を整えましょう。
荒川修作とマドリン・ギンズは現代の絶望的な状況を希望に変える必要があると考えていました。そのためには「人は死ぬ」という絶対的な天命を反転することによって、消極的な生き方を改める必要があるといいます。平衡感覚を揺さぶり子どもの状態に戻し、身体感覚を再構築、変革することにより、古い意識も変革することができる、というのがこの施設を作った彼らのねらいなのです。
何とも難しい話ですが、聞くより実践する方が分かりやすいかもしれません。さっそく先へ進んでみましょう。
水を求めて登れ!“昆虫山脈”
オフィスのすぐ外には、小さな岩山が立ちはだかっています。その頂上には水くみ用のポンプがあります。まずは昆虫のように、水を求めて頂上まで登っていきましょう。
ちなみにこの養老天命反転地、荒川修作がこの施設を作った目的の都合上、足場が不安定な場所が多いです。チケット売り場で運動靴、ヘルメット、救急箱を貸し出しており、開館直後には骨折者も出ました。ちなみに怪我人の人数を聞いた荒川修作は「案外少ないな」とコメントしたといわれています。
昆虫山脈で危険を感じた人は、大人しく一度引き返してヘルメットと運動靴を借りましょう。
家具が散乱している“極限で似るものの家”
昆虫山脈を抜けると、岐阜県の形をした屋根を持つ極限で似るものの家が待ち構えています。中は迷路になっており、通路のあちらこちらにはソファや冷蔵庫、ガスコンロ、電話やスタンドライトのおかれた机などが、壁にめりこみつつ散乱しています。さらに天井を見ると、そこにも同じような家具が貼りついています。
荒川修作とマドリン・ギンズは、「自分の家とのはっきりとした類似を見つけようとすること」「ここが双子の家だと思うこと」「自分がここに住んでいる、あるいは隣の家がこれだと思うこと」を体験者に提案しています。
いざ、“楕円形のフィールド”へ
極限で似るものの家を抜けると、すり鉢状になった広大な土地が広がっています。木々の隙間からは奇怪な建物の一部が顔を出しています。
人であるよりは肉体であることを求められる“白昼の混乱地帯”、何かを決めるために、あるいは以前決めたよりも繊細、そして大胆になるための“もののあわれ変容器”、地図上の約束を忘れる必要がある“地霊”など、奇妙なスポットが満載です。
さて、滑らないように気をつけながらすり鉢状の地面を降りていきましょう。フィールドの中央には何があるのでしょうか。