伊藤健太郎の我の強さが生かされた過去の役柄
伊藤健太郎の俳優としての魅力は、良い意味での“我の強さ”を感じさせることにもあるのではないか。例えば『弱虫ペダル』(2020)や『とんかつDJアゲ太郎』(2020)では、天才肌であり確かな信念を持っていて、心からの尊敬の対象であると同時に、鼻につく高慢さもある人物にばっちりハマっていた。伊藤の鋭い眉や目つき、その若干の威圧感も含む存在感が生かされた役だろう。
その一方で伊藤は『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)のような信頼できる心優しい少年にも扮しており、『惡の華』(2019)では思春期ならではの鬱積した心情を、『のぼる小寺さん』(2020)では“何者でもない”からこそ好きな女の子を見つめる淡い恋心を見事に表現していた。端正な顔立ちもあってか親しみやすい役もこなせるし、その我の強さが“それだけではない”キャラクターの深みを与えていたようでもあった。
たくさんの過ちを繰り返したからこその物語
そんな伊藤健太郎が今回の『冬薔薇』で扮するのは、前述したようなダメ人間。伊藤が持っている我の強さが、誰もが少なからず抱えている“弱さ”や“ズルさ”の方向に全振りされているような、矛盾した表現だが「全力で中途半端になっている」ような印象さえあった。
もちろん、この主人公がまったく成長しないまま物語が終わるわけではない。ネタバレになるので詳細は避けるが、過ちを繰り返していた彼はやがて“正しい行い”について考えるようになり、その先には“変化”も訪れる。それでいて、過ちが完全にリセットされるような、安易な結末も用意されてもいない。
その時の、憂いを帯びただけではない、怒りや悲しみ、はたまた達観など、さまざまな感情を交錯させていく伊藤の演技に圧倒された。それは、現実で過ちを犯した伊藤本人の心情も入り混じっているようにも思えたからなのかもしれない。