ハルヒの接客術

 そして藤原は、MBSのドラマイズム枠で毎週火曜日深夜に放送中のドラマ『明日、私は誰かのカノジョ』でも視聴者を圧倒する存在感を発揮している。

 レンタル彼女として働く雪(吉川愛)をメインキャラクターに、愛の不毛に悩む5人の女性たちの中、自分の存在意義に人一倍敏感なのが、萌(箭内夢菜)。先日放送された第7話では、萌が毎週入り浸っているゲイバーで知り合ったゆあ(齊藤なぎさ)に連れられ初ホストを経験する。

 お試しで入れ代わり立ち代わり登場するホストたちに辟易する一方で、ゆあの絶対的な推しメンであるハルヒ(藤原樹)は、なかなかのやり手だ。登場の仕方からして、他のホストたちとは違う。青いパーカーにジーンズという気取らないカジュアルさに、顔立ちは超美形。クールに軽く挨拶し、席につく。椿山荘での雰囲気そのままに、今度はホストに扮したという、さりげなくカッコいい感じ。

 他の指名客との席を行ききするハルヒに、しょげて見せるゆあへの対応力は、格が違う。ゆあの手を優しく握り、近すぎない程度に自分の側へそっと引き寄せる。スムース過ぎる動作には、微塵の狂いも、違和感も感じられない。完璧なホストの接客術が、身体の芯に染み付いている。

 それでいて、グラスの水滴をこまめに拭いたり、お酒を注いだりと、むやみやたらと世話を焼かないのが、より一層クールな印象を与える。ホストは、お客さんに指名され、ボトルを開けてもらうのが商売だが、彼の場合、ひとりの男と女が、今目の前にいて、世界には自分たちしか存在していないかのような擬似的な幻想みたいなものを抱かせてくれる。それがハルヒの接客術だ。こりゃ、誰でも沼にハマって、自然とハルヒの指名を繰り返したくもなるに違いない。

ハルヒと“藤原沼”

 しょげ続けるゆあの肩を右腕でしっかり包み込みながら、「不安になっちゃった?」とハルヒは、言う。うまいリップサービスだとしても、心に触れてくるような夢見心地の一言。こうなったら、彼との幻想を続けるしか選択肢はない。他のお客さんに取られてしまうのではないかと心配するゆあに対して、クールなキャラを崩さずに、これも幻想に近いものだけど、自分たちの信頼を確かめ合う。

 彼女に向き合い、言葉を紡ぐとき、左耳、右耳のピアスが交互に揺れるのが、艶やかだ。相手の心の襞(ひだ)が絡まるのを繊細なタッチで解いていきながら、軽く頭と頭をすり合わせ、静かに微笑む。何度でも言おう。完璧じゃないか! そのあと、深夜2時にゆあの家で会う約束をして、るんるんのゆあは、オムライスを作って健気に待つ。その間、ちょっとしつこいなと思うくらいのメッセージを打つが、なかなか既読がつかない。

 そして、2時をすぎてもハルヒは来ない。朝になり、幻想の夢はすっかり溶けてしまったようだ。怒りを爆発させたゆあは、オニ電し、オムライスの皿を床に叩きつける。それでもハルヒのことが頭から離れず、もだえる。

 ゆあのようにハルヒに会うためにホスト通いになるのは嫌だけれど、“藤原沼”なら、ぜひ一度ハマってみたいものだ!

<文/加賀谷健> 加賀谷健 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。 ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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