離婚をするとき、慰謝料・養育費・財産分与、そして年金分割などお金のことが必ず問題になります。お互いに自立して生活できる収入や財産があればまだしも、そうでない場合は離婚をきっかけに金銭的に困ってしまう人も……。今回は「年金分割」で気を付けたいポイントについて解説します。

「年金分割」とは?

年金分割とは、離婚するときに、結婚していた期間の厚生年金記録を夫婦で分割できる制度です。

厚生年金は一般的に、その年金保険料を払っていた間の収入(標準報酬月額)が多いほど受け取れる年金額も多くなります。たとえば「会社員の夫と専業主婦の妻」といったケースでは、離婚することによって妻側がもらえる年金が極端に少なくなってしまうことも考えられます。

そこで、この場合は「妻の支えがあったからこそ夫は働いてこられた」という前提にもとづいて、将来受け取る年金を計算するときの元になる収入(標準報酬月額)を夫婦で分割する(計算上、妻にも収入があったことにする)ことができます。

年金分割の落とし穴

収入が少なかった側も年金を確保できる可能性がある「年金分割」ですが、事前に知っておきたい注意点もあります。

落とし穴1. 「年金額の半分をもらえる」ではない

「年金分割」とだけ聞くと、片方がもらえる年金額の半分をもう片方に分け与える制度のように思うかもしれません。

ただ、年金分割で分割されるのは「年金額」ではなく「年金記録(年金を計算するときの元になる収入(標準報酬月額))」です。しかも必ず「2分の1」がもらえるわけではなく、2人の合意や裁判所の判断によって割合が変わることがあります。

ちなみに、厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況(2020年度)」によると、年金分割によって増えた(もう一方からすると減った)年金額の平均は「月額およそ3万円」となっています。中には月に数千円しか変わらないケースもあります。

落とし穴2.分割されない年金もある

年金分割の対象になるのは「厚生年金もしくは共済年金」です。これらは基本的に、会社員や公務員が加入しているものです。配偶者が自営業やフリーランスなどで厚生年金に加入していない場合、年金分割はできません。

また、あくまで「結婚している間」の年金記録を分割することになるため、結婚前や離婚後は含まれません。結婚している期間が短い場合は、分割によって受け取れる年金額が少なくなってしまうかもしれません。

落とし穴3.請求期限は「2年」

原則として、離婚した日の翌日から2年以内が請求期限となっています。これを超えてしまうと裁判所での申立てもできず、年金分割はできないままになってしまいます。

年金分割で損をしないために

年金分割は、ほったらかしで自動的に行われるものではありません。2年以内に請求手続きをする必要がありますので、忘れないようにしましょう。

手続きでは「標準報酬改定請求書(離婚時の年金分割の請求書)」を年金事務所に提出します。書類は最寄りの年金事務所に取りに行く、もしくは日本年金機構の公式サイトからダウンロードして入手することができますよ。

参考:日本年金機構「離婚時に年金分割をするとき」

50歳以上もしくは障害年金の受給権者の場合、「年金分割のための情報提供請求書」に記入して提出すれば、分割後の年金の見込み額を案内してもらえます。年金がいくら受け取れるかは老後の生活設計においてとても重要な情報になりますので、ぜひ事前に確認しておきましょう。

まとめ

離婚時の年金分割は、するかしないかで老後の暮らしが大きく変わってくる可能性があります。必ず手続きを忘れないようにしましょう。

年金だけでなく、退職金やその他財産の分与、養育費や慰謝料などもあわせていくら受け取れそうか、あらかじめ計算して生活設計をしっかり練ってから離婚するのが理想的です。

離婚で困ったときは、自治体の法律相談窓口や法テラスなどで、無料で弁護士に相談することもできますよ。

文・馬場愛梨(ばばえりFP事務所 代表)
自身が過去に「貧困女子」状態でつらい思いをしたことから、お金について猛勉強!銀行・保険・不動産などお金にまつわる業界での勤務を経て、独立。むずかしいと思われて避けられがち、でも大切なお金の話を、ゆるくほぐしてお伝えする仕事をしています。AFP資格保有。

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