シーズン3は、イヴは好奇心、ヴィラネルはコントロール、キャロリンは仕事と、それぞれ執着の対象は違えど、要は心痛、罪悪感、恥に直面するのが怖くて、何かに固執していなければ生きて行けない哀しい三人の女を描きました。

漸く始まる最終シーズンを前に、シーズン4の制作総指揮/脚本家を務めたローラ・ニールが豪語した「破茶滅茶だけど、人情の機微を盛り込んだ、壮観な有終の美を飾って見せます」が、如何に具現されるかを巡って、評論家の間では様々な推測が飛び交いました。解決しなければならないことが山積みになっているからです。視聴者が何に重きを置いて(あるいはどの角度から)ドラマを観ているかで、優先順位は異なると思いますが、1)’思い込んだら命がけ’の三人の女の運命は?2)「トゥエルブ」の黒幕は誰?3)イタチごっこを繰り返してきたイヴとヴィラネルの関係はどうなる?が、解決して欲しい/しなければならない課題であることに間違いありません。

「キリング・イヴ4」の辻褄の合わない結末の裏に何がある?毎シーズン制作総指揮者交代が仇に?
(画像=怖いもの見たさにヴィラネルに近付いたシーズン1〜2とは逆転し、すっかりスパイ役が板に付いて、自信も取り戻したイヴ。独り身になったこともあって、「トゥエルブ」と言う名の怪物をこの世から葬るためには、死をも辞さないが. . .生き残ったら、何を目的に生きて行こうというのだろう?(c) Anika Molnar/BBCA、tvgrooveより引用)

イヴは、警備保障会社に籍を置きつつも、要人のボディーガード等、スリル満点ではない仕事は適当にこなし、主君を失った浪人の如く、「トゥエルブ」の全貌を明かすべくヨーロッパを股に掛けて捜査活動に専念。ヴィラネルが幹部職に相応しい人材であるかを見極める面接官だったエレーヌ(カミーユ・コッタン)から、芋ズル式に黒幕に到達しようと企んでいます。イヴは最早、己の冷酷非情な影の部分に全く違和感がなく、ターゲットに近付く変装やキャラ作りが板につき、ヴィラネルやエレーヌ宛らの刺客と化しました。

キャロリンはMI6を追われ、マヨルカ島の英国領事館に左遷となり、暇を持て余しています。ロシアに熟知している私を差し置いて、「トゥエルブ」を撲滅しようとは言語道断!と息巻いていますが、息子ケニーの暗殺は誰の差し金だったのかを探るため、ロシアの旧知を訪ねて深く静かに. . .と思いきや、「トゥエルブ」の拷問暗殺を辛うじてまぬがれたターゲットを訪ねて、ハヴァナに向かいますが、キャロリンの身にも危険が迫っています。

「キリング・イヴ4」の辻褄の合わない結末の裏に何がある?毎シーズン制作総指揮者交代が仇に?
(画像=キャロリンは、当然イヴを引きずり込めると確信して、「トゥエルブ」の仕事と思われる暗殺情報と資金(自身の貯蓄)を手にやって来るが、体良く断られ、三人三様の捜査を始めることになる。(c) David Emery/BBCA、tvgrooveより引用)

最終シーズンは、すっかり元気を取り戻したイヴに対して、イヴの許しを請うために、信仰の道を選んだヴィラネルの異常な行動が描かれます。サイコパスがある日突然、改心して周囲の祝福を獲得しようと必死になる、しかも自分の為ではなく、イヴの気を引く作戦と、かなり稚拙な論理です。そんなに簡単に人間が変われる筈がありません。何しろ、ヴィラネルのサイコパスは年季が入っていますから、祈ったぐらいで過去を消し去る訳には行かないからです。洗礼式に姿を現さなかったイヴに怒り狂い、教会でついつい素人(=暗殺ターゲットではない)を殺めて、追われる身になってしまいます。

「キリング・イヴ4」の辻褄の合わない結末の裏に何がある?毎シーズン制作総指揮者交代が仇に?
(画像=[ヴィラネルらしからぬ、困った時の神頼み風景は吹き出してしまう。本人は至って真剣なのか、相変わらずドラマチックな変身ぶりで、イヴの気を引こうとする試みなのか?それにしても、今シーズンはファッションの「フ」も見られず、色褪せてしまって残念だ。(c) David Emery/BBCA]、tvgrooveより引用)

制作総指揮者は、シーズン1のウォラー=ブリッジから→シーズン2エメラルド・フェネル→シーズン3スザンヌ・ヒースコートとバトンタッチし、最終シーズンは、ローラ・ニールが締め括り役に抜擢されました。シーズン2のフェネルは、政権交代発表がなければ全く気が付かなかったと思う程、会話も雰囲気も作品カラーも同一に仕上げることに成功した上、ヴィラネルのブラックユーモアに磨きがかかり、吹き出すシーンが増えました。

ヒースコートが担当したシーズン3は、ヴィラネルの殺しのプロセス、キャラ作り、更にはファッショナブルでグルメ志向など、シーズン1〜2をユニークで楽しいスパイドラマにした要素が完全に消えてしまいました。ヴィラネルが産みの親を訪ねあて、生い立ちを探ったのもその一因です。現在のヴィラネルの人となりを形成した母親を観ると、確かにこんな親に捨てられ、児童養護施設で育つとこうなるのは当然!と納得し、ヴィラネルも人の子と親近感を抱いてしまう’お涙頂戴的’筋書きになっていたからです。サイコパスはサイコパスで、良いではありませんか?ヴィラネルからあの気狂い沙汰を取り除いてどうしようと言うのでしょう?ロシアの施設で9歳のヴィラネルに遭遇した際、「もう立派なサイコパスだった」とキャロリンが語るシーンがあり、善人になろうと努力するなんて時間の無駄、これは誰にも負けない!と言える(サイコパスの?)才能を育んでどこが悪い?的発言で、ヴィラネルを励ます(?)場面がシーズン4に書き込まれています。

2020年5月31日に「キリング・イヴ3」は、ヴィラネルとイヴがロンドンのタワーブリッジで何とも切ない別れ方をして終わりました。ですから、余計に「キリング・イヴ4」の終末が、色褪せて見えるのかも知れませんが、私は切ない余韻が心に残ったので、あれこそ有終の美だったのにと比べてしまいます。数々の惨殺シーンが、ニールが指摘した「破茶滅茶」だったのでしょうか?血みどろが苦手な私は、何度目を覆って早送りにしたことでしょう。正直な所、「えーっ!それはないでしょう」と思わず目を見張ってしまいました。毎シーズン、新たなクリエイターが「キリング・イヴ」を振り出しに戻して制作する、前代未聞のリレーが祟って、取り留めも一貫性もない最終シーズンとなったのではないでしょうか?

「キリング・イヴ4」の辻褄の合わない結末の裏に何がある?毎シーズン制作総指揮者交代が仇に?
(画像=サイコパスでも、まともな人間になれるかを尋ねたくて、イヴの恩師/犯罪心理学者マーティン・ワトソン(アドゥル・アクター)を人質にとり、生まれて初めてセラピーを体験するヴィラネル。人質にとるのがヴィラネルらしくて良い。(c) Anika Moinar/BBCA、tvgrooveより引用)