不動産業者などで住宅ローンの相談をすると、必ずといっていいほど、「毎月返済額は8万円ですから、お客さまの年収なら全然問題はありませんよ」などと、当面の負担が軽く見えそうな資金計画を勧められる。そんなセールストークに乗せられて、何の疑いもなく買ってしまうとたいへんなことになる。失敗する人の典型的なパターンだ。なぜなのか。

実は、月額は8万円でもほかにボーナス時返済が組み込まれているのが一般的。だから、たしかに毎月分は8万円なのだが、ボーナス時返済がその6倍の48万円で、ボーナス月の返済額は56万円にもなってしまうのだ。

毎月の8万円だけなら、年間96万円だから、まだまだ年収の低い人でも十分にやっていけそうだが、それにボーナス返済の48万円×2回の96万円が加わると、年間の返済額はいっきに192万円になる。月平均にすれば16万円だから、30万円、40万円程度の給料では生活が難しい。少なくとも50万円、年収にすれば600万円は必要だろう。

これではカツカツの生活になって、バラ色のマイホーム生活どころか、灰色の暗い生活になってしまう。この返済額でゆとりある生活を送るためには、700万円、800万円の年収が必要。それが失敗しない、成功するための条件といってもいいだろう。

「いくら借りられるのか」ではなく「いくらまで返せるのか」

いくらまで借りていいのかは、実際に自分たちの家計をチェックして、月々いくらまで返せるのか、年間ではいくらまでなのかを確認し、その範囲内に借入額を抑えるのが賢い利用者というもの。

「いくら借りられるのか」ではなく、「いくらまで返せるのか」で判断しなければならないのだ。その場合のチェック方法としては、金融機関が住宅ローンの審査などで利用している「返済負担率」の考え方を利用するのがいいだろう。

返済負担率というのは、住宅ローンの年間返済額が年収の何%を占めるかを示す指標。たとえば、毎月の返済額が8万円、ボーナス返済が48万円なら、年間の返済額は192万円だから、年収600万円の人だと、返済負担率は、「192万円÷600万円=0.32」で、32%ということになる。年収800万円なら、「192万円÷800万円=0.24」だから24%という計算だ。

この返済負担率、民間金融機関ではどこまでOKなのかなどは公表していないが、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して実施されているフラット35というローンでは、

 年収400万円未満  30%以下
 年収400万円以上  35%以下

となっている。民間金融機関の多くでも、この基準が適用されているのではないかとみられている。

年収によっては返済負担率25%までに

この返済負担率の基準からすれば、上の年収600万円で年間返済額が192万円の場合、返済負担率は32%だから、400万円以上の条件をクリアしている。だから、銀行の審査上は問題ないのだが、それはあくまでも審査基準上の話。実際の家庭における家計管理上の考え方はまた別物だ。

年収600万円といっても、それは額面の話。ここから各種の税金や社会保険料、生命保険料などを差し引くと手取りは500万円ほどに減るだろう。そのうち192万円を住宅ローンの返済で持っていかれると、残るのは300万円ほど。それで、果たして生活していけるだろうか。生活にゆとりはなく、将来や万一に備える蓄えなどの余地はほとんどなくなってしまう。

そのため、年収400万円以上であっても、600万円程度の場合には、返済負担率は25%程度に抑えておくのが無難。800万円程度なら30%まで引き上げていいだろうし、1000万円を超えれば35%でもOKだろう。この範囲内で決して無理をしないのが賢い判断というものだ。