会社などにお勤めの方は、健康保険の保険料が毎月の給与から天引きされています。日本では、すべての人が公的医療保険に加入する必要がありますので、会社を退職した場合は、自分で手続きをして保険料を支払わなければなりません。Tさん(40歳女性)は、老後資金を貯める方法をご相談に来られた際に、「昨年、転職したときに、貯蓄が少なく大変困ったことがあります」と、お話してくださいました。

会社を退職したあとも、いろいろな支払いがある

当時のTさんは、1人暮らしで生活費の負担がある上に、貯金をする習慣がなかったので、使えるお金は退職金として受け取った200万円のみでした。転職先は、まずは現在の会社を退職して、それから探そうと考えていたそうです。当初は、退職金を活用して生活費にあて、資格を取るための試験を受け、すぐに就職先は見つかるだろうと思っていました。

また、Tさんは、退職後は手続きすれば、いつでも失業手当が受け取れるものと思っていました。しかし、実際はハローワークで求職の申し込み手続きをしてから7日間の待機、会社を辞めた理由が“自己都合”であるので、手当を受け取れるのは、さらに3ヵ月が経過したあとになります。

家賃の支払いなど生活に必要なお金の他に、国民年金保険料や住民税も納めなければなりません。資格を取るための費用もかかります。

国民健康保険にも加入しなければならないのですが、普段から病気などで病院に行くことがなかったTさんは、“健康保険は、転職して会社で加入すればいいかな”と、加入手続きは後回しにされました。

就職前にケガで整形外科に行くことに

会社を退職して、4ヵ月ほどたった頃、帰宅途中に駅の階段でつまずいて、右足を痛めてしまいました。翌日、痛みが激しくなり、整形外科に行くことに。治療費は全額自己負担で、松葉づえのレンタル費用との合計で約2万5,000円かかりました。今後は通院の費用もかかります。このままではいけないと思い、足の痛みが少し治まった頃、国民健康保険の手続きをされたそうです。

国民健康保険は、会社を退職したなどで加入する状況が発生したら、その日の翌日から14日以内に住所地の市区町村で加入の手続きをしなければなりません。やむを得ない理由がなく手続きをしていなかった場合は、加入前にかかった医療費は全額自己負担になってしまいます。

また、手続きが遅れたとしても、加入日は会社を退職した日の翌日になりますので、手続きの際にはさかのぼって保険料を納めることになるのです。Tさんは、39歳、前年の年収は350万円でしたので、お住まいの地域では、国民健康保険料は1年分で22万6,700円となりました。

国民健康保険料を滞納すると滞納処分(差し押さえ)の対象になることも

国民健康保険の保険料をそのままにしておくと、督促状、催告状が届き、遅延金が加算されたり、財産が差し押さえられたりなどの滞納処分になると定められています。

転職活動は思うように進まず、ご友人の紹介があり、現在お勤めの会社に入社したのは、退職してから1年後のことでした。Tさんは、転職の際はご両親に不足分のお金を借りたことで心配をかけてしまい、とても反省されたそうです。

緊急時に備えて資金の準備が重要

40歳になると介護分保険料が加算されますが、手続きが遅れることで介護分保険料も滞納となり、介護サービスを受けるときの自己負担額が増える場合があります。国民健康保険の保険料は、前年の収入によって算定されますので、もしもTさんが安定した収入が得られるまでの期間が長くなっていたとすれば、2年目の保険料を減額してもらうことが可能です。また、会社に入社したら脱退の手続きをしておきましょう。

在職中に転職活動をしていれば、資金に悩むことはなかったかもしれません。希望通りの転職ができても、想定外の出来事で収入が減るなどの事態に備えておくことは大切ですよ。今後は、日ごろから貯蓄を心がけ、思い描くライフプランが実現できるように、今から資金準備をしていきましょう。

 
文・藤原洋子
所属・FP dream代表
生命保険会社で営業職を経験し、AFP資格を取得。現在は、独立系ファイナンシャル・プランナーとして、執筆、相談、セミナーを通して活動しています。

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