「実家の処分」は特に今の現役世代にとって切実な問題である。たとえば地方都市で育ったものの、仕事の都合で東京や大阪で生活している人には、地元に生まれ育った思い出のある「実家」がある。

両親が健在なうちはいい。けれども両親が年老いて施設で生活するようになったり、亡くなったりした後に起きるのが、この「実家の処分問題」である。

実家の処分問題の根幹には「不動産が売れない」という現実がある。人口が減っているから、当然マンションや土地などは売れにくくなる。しかし、実家が処分できない理由が「人口減少」だけではなく、「法律的な事情」ということも珍しくない。

共同所有不動産の売却は「全員の同意」

処分がうまくいかない原因を解説する前に、「共同所有不動産」の売却方法を確認しよう。

たとえばAとBとC3人の共同所有不動産があるとする。この不動産を売却するためには、3名全員の同意が必要なのだ。

法的には3人それぞれは「共有持分権」を持っており、持分権だけを売却することは可能だ。だがあくまで「法的には」。他人間の売買で共有持分という状態で買ってくれる人はほとんどおらず、共有不動産を売るには全員の同意が必要だ。

数十人が共同所有している状態に

全員の同意がなければ現実的に不動産は売れない。このことが実家の処分を難しくする。共有者が3~4人ならおそらく家族で共同所有形態になっているのだから、意思の統一もスムーズにいくことが多い。一方で数十人の共同所有形態であったらどうだろうか。全員の同意を得るのは難しいだろう。

数十人での共同所有などあるかというと、実は「数十人共有」は珍しい話ではない。「相続登記」をせず放置することで、数十人共有にはなり得る。

「相続登記」とは、不動産の名義人になっていた人が亡くなった後にする所有者名義の変更手続。これをしないとやっかいなことになる。もともと少人数での共同あるいは単独所有であっても、相続が繰り返された結果、不動産の所有者が数十人になることがある。

たとえば単独所有者Aが死亡したとする。Aの相続人は兄Bと妹C。相続登記をせずにBも死亡したとする。こうなるとBの相続人は配偶者Dで、そのDも死亡すると、Dの相続人はEとFとG。そしてEが死亡して……。

超高齢社会である日本では、相続人自身が高齢であることが多く、相続人になった者が時間を置かずして亡くなり、また相続が始まることがある。兄弟姉妹間の相続人になると、相続人は一人や二人ではないことも多く、あっという間に不動産の権利を相続した者は数十人になってしまう。

対策としては、相続が起こったらすぐに相続登記をし、名義を整理しておくことだ。Aが死亡して相続人がBとCであれば、B−C間の合意がそろうなら、遺産分割協議でいずれかの単独所有としておく。また相続が発生したら、できることならやはり遺産分割協議をし、名義を誰かの単独名義にする。こうして所有者が際限なく増えていくという事態を回避できる。